「オレンジ食いてぇ」跡部がそう言うときは必ず千石に会ったあとと決まっている。それどころかチラとでも千石の姿を見ただけでも、跡部は必ずオレンジを欲した。だからか跡部の執事であるミカエルと跡部の幼馴染みである樺地はいつでもオレンジを渡せるようにと、自分が食べるわけでもないのに常に持ち歩いていた。ちなみに跡部はオレンジが食べたいと言うが、別に蜜柑でも構わないらしい。とにかく千石の髪と同じ色をしていれば、それで構わないらしい。

「オレンジ食いてぇ」そう言った跡部の目線の先には女子をナンパする千石がいた。後ろに控えていた樺地はすぐに鞄から切り分けてタッパーに入れたオレンジを出し、小さいフォークと共に差し出す。跡部はフォークを掴み、そのままオレンジを食べ始めた。けれど目はチラリチラリと千石を追いかけている。樺地はその様子を見ながら、跡部は千石のことが好きなのか、はたまた嫌いなのか、いったいどちらなのだろうとだけ考えていた。

「オレンジ食いてぇ」帰ってきて早々、跡部が呟くとミカエルはすぐにオレンジを剥き始め、そして剥いたオレンジを皿に盛り、跡部に差し出した。跡部はミカエルをどこか遠くを見詰めたままオレンジを手掴みで食べる。ミカエルはそんな主の姿を見ながら、いったい跡部は何がしたいのだろうかとだけ考えていた。

「オレンジ食べる?」千石とのファーストコンタクトは皮が剥かれたオレンジと共に差し出されたものだった。跡部はジュニア選抜の食堂で勝手に向かい側に座ってきた男に不快感を抱いていたが、千石があまりにも爽やかに笑いながらオレンジを勧めてきたので、一瞬だけ不快感が飛び、さらに反応が遅れてしまった。その隙を付き、千石は跡部の口にオレンジを運ぶ。反応が追い付いた時にはすでに、跡部はオレンジを食べてしまっていた。あまりにも、不覚。千石はそんな跡部をどうとも思わず、ただ「俺、千石。よろしく、跡部くん」とオレンジ色の髪でオレンジの匂いを漂わせて笑った。ごくりとオレンジを飲み込む。跡部は未だにその時のオレンジと千石が忘れられない。



明るい色した感染
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