小さい頃から金魚すくいが好きで、祭りにいくたびにやっていたらいつの間にか金魚すくいが得意になっていた。別に金魚がすごく好きというわけではない。金魚は生き物で食べられるわけではないし、それに紫原は生き物を飼うということがとても不得意だ。だから紫原は、毎年大量に金魚を家に持ち帰ってもすぐに金魚を死なせてしまう。
 祭りに行き、またいつものように金魚すくいをしようとすると、隣で赤司が紫原の着物の裾を引っ張った。従順な紫原はすぐに赤司を見る。赤司から命令が下される。
「僕に見合う金魚を取ってこい」
 紫原は文句も言わず、理由も聞かずに金魚すくいを始めた。後ろでは赤司が小さな子供に混じる紫原の大きな背中を眺めている。紫原はたゆたう金魚たちを見詰めながら、赤司に見合う金魚を探した。だから紫原は慎重に慎重に、金魚を隈無く見詰めた。赤司の髪より淡い赤色が蠢く。
 やがて、紫原は一匹の金魚を見付け、すっと、それだけをすくった。紙は破れてはいない。けれど、紫原は屋台の男にもうやらないと言い、屋台の男は訝しげに紫原を見ながらも水が入った袋に紫原がすくった金魚を入れ、渡した。紫原は袋を持ち、真っ直ぐ赤司の元へと向かった。袋にはなんの変哲もない金魚が一匹。
「一番、赤ちんに似た色してたから」
 何も言わない赤司に、紫原はそう言った。紫原の言葉を聞き、赤司は袋を受け取り、まじまじと金魚を眺めた。なるほど、確かに赤色が濃い。
「流石だな、敦」
 礼は言わない。何故ならば命令だったからだ。紫原も不満はないらしく、代わりに赤司に怒られなかったことに安堵したのか、わたあめが食べたいと言い出した。赤司はそんな紫原に、買いに行こうかと優しく言い、歩く。紫原も赤司の隣を歩いた。袋の中という狭い中で金魚がたゆたう。赤司は金魚を一瞥し、僕はこんなに綺麗じゃないよと心中でこぼした。



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