「俺さ、靖友と付き合ってんだよ」
 部活終わり、新開が夜に部屋へ行っていいかと訊ねてきた時からまた自転車に乗れなくなったとか言い出すのではないか、と危惧したがそれは杞憂に終わった。その代わり、新開はパワーバーを口にしたまま、さらっととんでもないことを言ってのけた。その驚きはある意味新開が自転車に乗れなくなった時と同じくらいのもので、金城の件からメンタルも強化していた俺はその時くらい取り乱しそうになった。だが新開はなんでもないようにもさもさとパワーバーを咀嚼し、「軽蔑したか?」と訊ねてきた。
「……正直、驚きすぎてそれどころではないな」
「そうか」
 俺の答えなどわかりきっていたのか、新開は変わらない。だから余計に混乱した。いったい新開が何を言いたいのかわからない。いや、荒北との関係を言いたかったのか。しかしそれだけなのだろうか、本当に。いつか東堂に言われた、フクはもっと言葉の裏を読み取るべきだという言葉を思い出す。恐らく今この状況がまさにそれだ。けれど、わからない。中学からの付き合いなのに、俺は新開の言葉の裏を読み取れない。
「寿一、そんな深く考えんなよ」
 いつの間にかパワーバーを食べ終えた新開が食う? と新しいパワーバーを見せる。気を遣わせた。そのことに罪悪感を抱き、いらないと首を横に振った。新開はいつものように爽やかに笑っていた。
「ハハ、だな。そんなときじゃねぇもんな。つか、悪いな、寿一」
「……何がだ」
 意味がわからず訊ねてみたが、新開からは「寿一は本当にいい奴だなぁ」という間抜けた返事しかしなかった。というよりもだ。俺はいい奴ではない。いい奴というのは新開や荒北のことを指すのだ。
「いや、寿一は間違いなくいい奴だぜ。で、靖友はそんなおめさんが世界で一番大好きだし、俺も寿一がすごく好きだ。そして俺は靖友のことが世界で一番大好きなんだ」
 あと、俺はいい奴なんかじゃねぇよ。
 最後の言葉は自虐が含まれている。ように感じられた。確信はないのでなんとも言えないが、恐らく俺は今日初めて、新開の言葉の裏というのに触れたのだろう。それにしてもわけがわからない。荒北が俺を好き。
「荒北はお前と付き合っているんだろう?」
「おう。でも、靖友は俺と同じくらいかそれ以上に寿一のことが好きだぜ?」
「……おかしくないか?」
「まぁ、確かになぁ。でもよ、俺だって靖友と寿一が同じくらい好きだぜ? あ、いや同じくらいは嘘だ。靖友のがちょっと上だ。でも二人とも死ぬほど大事なのは本当な」
 荒北が俺を好き。新開も俺を好き。でも荒北と新開は付き合っている。覚えたての言葉のようにそれらが頭にこだまし、頭が痛くなった。ちなみにここまでの流れで軽蔑するしないはもはやどこかへ消えていた。それもこれも、新開と荒北の関係が複雑すぎるからだ。
「……つまりお前たちは、俺と付き合いたいのか?」
「いや? 全然そんなこと思ってもねぇよ。ただ、靖友は俺と付き合ってるけど本命はおめさんってだけ。あー、んと、まぁ要するに寿一とどうこうなりたいって話じゃねぇってこと」
 伝わるかなぁ、と頭を掻く新開に、ならなんでこんな話をする、と至極当然のことを訊く。俺の知る新開という男は、最初から俺が混乱するような話はしない男だからだ。
「知っといてほしかったから」
 新開は笑う。
「靖友は寿一に言うつもりないって言ってたけど、俺はどうしても寿一にこのことを知っていてほしかった。俺のエゴだ。あと、きっと寿一なら受け止めてくれるって甘えがあったから」
 笑っているはずなのに、新開が泣いているように見える。一度瞬きをしてみたが、やはり新開は笑ってはいたが泣いてはいなかった。それでも新開が辛かったことは伝わった。そして新開がこうなのだから荒北も、辛いのだろう。未だに好きな人が二人いるだとか、それがなぜか俺だとか、理解できないことはあるが、俺は新開の言う『甘え』通り、二人を受け止めようとは思った。
「寿一、好きだぜ。寿一のいない人生なんて考えらんねぇくらい大事だし、ずっと一緒にいれたら幸せだと思う。なんなら愛してるって言ってもいい。でもな、俺が付き合いたいとか思うのは靖友だけなんだよ。寿一、ごめん、寿一」
「いい、新開。気にするな」
 本当に泣いてしまいそうな新開を抱き寄せる。新開の腕が背中に回る。
「やっぱり寿一はいい奴だな」



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