そこら辺にいたオッサンをカツアゲしたついでに奪ったタバコは今までにないくらい不味かった。最悪。こんなことならもうちょっと頭をぶん殴っときゃ良かった。いや、今からでもまたカツアゲしに行けば。そこまで考えていたら、なぜか勝手にベンチに座ってきた宇海の手が横から伸びてタバコを奪っていった。あっという間のできことにあたしは何にも出来やしなかった。少し短くなったタバコはそのまま地面へ落ち、宇海の靴の裏で踏まれた。
「っ、にすんだよ!」
 煙を消すようにぐりぐり踏み、それから律儀にゴミ箱まで捨てに行く宇海に吠えた。しかし宇海は戸惑ったように笑いながら「だって身体に悪いだろう?」とだけ言い、静かにまたベンチに座った。あまりの優等生さにヘドが出る。宇海がヤクザと仲良くしているという情報がなければすぐにでも鼻を折ってやるのに。腹いせに地面へ唾を吐きつける。
 寒風が吹く。冬だからとわかっていても寒さに苛立つ。チッと舌打ちをし、貧乏揺すりもする。こうすれば嫌でも宇海がどこかに行くと思ったからだ。ちなみにあたしが動かないのは車を待ってるから。携帯は最悪なことに家に忘れた。今日は完全なる厄日ってやつだ。今からでも宇海が死ねば、多少はマシになりそうだけど。
「寒いな」
 返事はしない。宇海の存在なんてないかのように無視。そうだ、無視すればいい。そしてあいつらが来たら、みんなで宇海をリンチすればいい。ヤクザとか知るか。全部宇海が存在しているのが悪い。死ね、宇海、死んじまえ。
 タイミングよく少し遠くから車の走る音がした。宇海を一瞥すると、何やら鞄の中を漁っていた。なんて間抜け。そのまま死ねばいい。そう思っていたら、宇海はあったとかなんか言いながら何かを取り出し、そのままあたしのほうに投げてきた。
「タバコの代わりにでもしてろよ」
 じゃ。呆気に取られている間に宇海はそそくさと立ち去る。本当は呼び止めるなり殴るなりして止めたかったが、宇海の投げてきたイチゴミルク味の飴があまりにも衝撃的すぎて、気持ち悪くて動けなかった。なに、なんだこれ、すげぇキモい。宇海キモい。
 車の止まる音がする。迎えが来たのだ。すぐさま気持ち悪い飴をゴミ箱に投げ、なんでもないふうを装うがイライラするし気持ち悪さは消えなかった。最悪だ。やっぱり今日はとんだ厄日でしかない。それもこれも、キモい宇海が死ななかったからに決まってる。



おまえは有害
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