「好きだ」
なんとなしに愛を囁いてみると靖友の顔がみるみるうちに犯罪者みたいに怖くなった。相変わらずわかりやすい態度に思わず口笛を吹いてしまう。するとそれさえも癪に触ったのか、ついに靖友の口から「死ねボケナス」とお馴染みの暴言が吐き出された。靖友は息を吐くように暴言を言う。そんなんだから怖いって言われんだ。
「なんだよ靖友、好きって言っちゃいけねぇの?」
「ちょっと黙れよお前」
黙れ、と靖友が言うときは怒っているか照れているかのどちらかだ。今は照れている。これまでの付き合いでそれは把握しているので、余裕でいられる。あーでも寿一は靖友が怒ってないのに怒っていると勘違いするなぁ。バカな寿一、靖友が寿一に怒ったことなんて今まで一回もないのに。
「やーすーとーもー、好きー」
照れているとわかっているので黙ることもせず、別に遠くにいるわけでもないのに間延びして言う。靖友のほうから雑誌が投げられたが、避けて無視。うん、普通に照れてる。
「靖友はさ、照れてる時に顔が赤くならないのがいいよな」
「アア゛!?」
「はは、そういう靖友が好きってこと」
「……マジで黙れよお前」
靖友の顔は指名手配犯みたいな怖い顔だった。ふと、この状態の靖友と直線鬼だったらどっちが怖いのだろうと思った。でも確かめる術がないので早々に思考を放り、靖友の眉間をぐりぐり押す。お、なんかこのままバキューン出来そうだ。
「靖友、バキューン」
手を銃の形にしてみると、靖友のパンチが鳩尾にクリーンヒットした。痛い。めちゃくちゃ痛い。あまりの痛さに靖友から離れ、腹を抱えて床の上でのたうち回る。
「くだんねーこと言うからこうなんだヨ」
冷ややかな靖友の言葉に返事がしたかったが、まだ消えない痛みのせいで何も言えない。うう、と唸りつつ、それでも靖友がただ照れていることだけはわかった。はは、可愛いやつめ。内心笑っていると、まるで俺の心を読んだように靖友が頭を叩いてきた。しかしそれも靖友の照れ隠し、と思うと何ともなかった。ただ、痛いだけだった。
君が好きすぎて腹痛い
お題>女顔
/ついいちゃつかせてしまう