部屋で楽しそうに毒草図鑑を眺める白石を見ていると、するりとそれは落っこちてきた。
「俺な、死ぬなら白石の育てた毒草で殺されて死にたいわ」
 言い終わる前に自分で自分の言葉に引く。これではまるで昼ドラに出てくる駆け落ちしそうな女のようだ。謙也は言い終わってからうっかり笑い声をこぼそうとし、しかしそれはあまりにも驚いて目が点になった白石と目が合ったことで止めた。口も空いているその間抜け顔にも笑いそうになったが、耐えておく。なんとなく何があっても笑ってしまってはいけないような予感がしたからだった。
 笑うことを耐えているせいで黙った謙也に、白石は間抜け顔を真剣な顔にシフトチェンジし、毒草図鑑に栞を挟み畳んで床に置いた。別にそこまでしなくともいいのに。謙也がそう思っていることも知らず、向かい合って座りながら白石は無防備な謙也の手を取り、血管をなぞった。くすぐったい。もしや笑いを堪えていることがバレたのか、と思ったがそうではないらしい。白石の真剣な顔に少し喜びの色が混ざっていたからだった。
「それは、えぇな」
 今頃白石の頭の中は。決して悪くもなくさりとて良くもない頭を回転させ、相手の脳内を想像する。当たっていたらいいなと永遠に知ることのない答えに思いを馳せた。白石の美しい形の爪が目立つ指先は謙也の血管を楽しそうになぞっていた。ドキドキする。
「謙也がどっか行ってまいそうになったら、そうするな」
「俺、どこにも行かんけどな」
「わからんで。なんといっても、謙也はあっちゅう間にどっか行ってまうんやから」
「ほな、ちゃんと捕まえなな」
 どうやって、などとは愚問である。そもそも白石が先に言った。だから白石はもはや隠すこともなく喜びを剥き出しにし、血管をなぞるのを終わらせ、再び毒草図鑑を眺め出す。そこでようやく謙也はこっそりと笑うことが出来た。



毒ミント味
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