年相応の朗らかな笑みを浮かべながら零は一条の髪に触れ、それから女を口説けるような甘ったるい声で「一条さんの髪の毛はとても綺麗ですね」と言った。しかもこの言動はすべて計算、ではなく零の素である。一条はそのことがわかっているだけに、下手に動けずに小さく舌打ちをするだけだった。零は舌打ちなど聞こえなかったかのように、ずっと一条の男にしては長く、そして綺麗な髪の毛を触っていた。しかもずっと笑っているので、いくら零の顔が良かろうが気色が悪い。今更すぎるほどに、一条は零に関わってしまったことを死ぬほど後悔していた。
「本当に綺麗」
 ぽつ、と溢れる止まらない髪の毛への称賛に早く終われと願う。けれど先ほどした賭けで零は、勝ったら自分の気が済むまで一条の髪の毛を触りたいといったので、早く終わるには零の意識をどうにか逸らす必要があった。一条にはそれが何なのかが皆目検討もつかないので、何も出来ないのだが。
 さわさわ触れる手は一向に収まらない。もういっそみつあみにしたいとかなら、好きにさせてやるのに。非生産的なことを嫌う一条はもはや諦めの境地に達しながらそう思ったが、零はただ触るだけだ。
「おい、いつまでさわんだよ」
「んー、一条さんが死ぬまでとか?」
 なんだそれ嫌に決まってんだろ。声に出さずともすでに顔に出ていたのか、冗談に決まってるじゃないですかと和やかに返された。いいようにされている。こんなガキに。ここに村上など店の従業員がいなくて良かった。一条はそこに安堵し、それからようやく零が髪の毛から手を離していることに気付いた。満足そうにため息を吐く零と目が合う。
「ありがとうございました、一条さん」
「……こんなん触って何が楽しいんだか」
 礼を言われる筋合いもないので無視し、先ほどまで他人にいいように触られまくっていた髪の毛先を見る。確かに一条の髪の毛は一条自身も気を付けているから綺麗ではあるが。それでも髪の毛だけが綺麗な人間など五万といる。けれど零は「楽しいですよ」と答えた。
「だって俺、一条さんの髪の毛だけが好きですから」
 一条の営業スマイルも顔負けの笑顔が輝く。しかし言葉と相まってまったく嬉しくもなんともない。これなら真顔か嫌そうな顔でもされたほうがよっぽどマシだ。それなのに現実とは光っているくせに暗闇しかないのである。



子供は極悪なのよ
/一条と絡ませたくて、冬
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