そう言えば佐倉は野崎の奴に告白とかしねーのかなぁ、と思ったので野崎がいない隙に訊いてみたら、佐倉はしょぼんと肩を落としながら、したよ、と答えてくれた。その大きな目が潤んでいるところを見るに、告白は失敗したようだ。というか、今までのやり取りから告白が成功したとは考えにくいし、たぶん今のままで告白をしても成功しないだろう。もししたとしても、野崎のことだから『よし、漫画に使おう』とかいうオチだろう。それにしても、佐倉は強い。
「そうかな? 野崎くんに女の子として見られてないって知ったとき、もう死んじゃいそうだったけど」
って言っても、野崎くんが漫画家って言うのが衝撃的すぎて、それはだいぶあとに来たけど。
諦めたように笑う佐倉に、いや野崎はちゃんと佐倉を女の子として見てるぞと言いかけ、それも漫画家として、だということを思い出して止めた。というか自分からこの話題振っといてあれだけど、すげー気まずい。ちくしょー、鹿島だったらこういう時なんて言うかなぁ。ダメだとわかってはいるが、ついつい友達に頼ってしまう。うう、わからん。
「でも、佐倉可愛いから、さすがのあいつもいつかはちゃんと女子扱いすんじゃね?」
とりあえず浮かんだ言葉をそのまま口に出す。間違ってもこれは嘘じゃないからいいだろう。野崎がどうするかはわからんが、佐倉は本当に、普通に可愛いんだし。ギャルゲーで言う、実は可愛い地味なクラスメイト的な? うん、と心中で頷いてから佐倉を見ると、きょと、とした真ん丸な目をして俺を見ていた。な、なんかまずったのか!? 慌てて弁解しようとしたら、それより早く佐倉の口が動いた。
「びっくりした、みこりん、鹿島くんみたいなこと言うね」
「どういう意味だよ?」
「みこりんがかっこよくてびっくりした」
「おい!!」
当たり前のように言われた言葉は誉めているようで貶しているということはわかった。なぜならば佐倉の言葉は、俺がカッコ悪いことが前提だからだ。いや、確かに佐倉のカッコいいの基準は野崎だけれども。それでも複雑というか。てか、さりげなく鹿島の名前が出て、内心ひやりとした。佐倉が笑う。
「みこりん、ありがとう」
その礼が何にたいしてのものかは、すぐにわかった。だから俺はちょっと後ろめたいのもあって、ぶっきらぼうに返事をしてしまった。けれど佐倉は特に気にした様子も見せず、野崎くん遅いね、と言う。俺はそーだなと返事をしつつ、今度からちゃんと慰められるようにはしようとだけ思った。
魔法使いにもなれない