インターハイ特番だかなんだかよくわからないものに出演した帰り、俺に代理を押し付けてペダルを回していた男とばったり遭遇した。俺はただ驚いただけだったが、御堂筋はあからさまに嫌そうな顔をした。相変わらず人の恐怖心を煽る顔やなぁ、と思いつつ、よっ、と声をかけたらいよいよ耐えられなくなった御堂筋からいつもの口癖が漏れていた。今さら傷付きはしない口癖が。
「キモ」
「なんや御堂筋、今帰りか?」
「……やったらなんなん」
「途中までえぇか?」
 何気なく提案すると、御堂筋はまた口癖を漏らし、それから「石垣くん遅いやん」と拒絶してきた。まぁこれも想定内、というよりもこれでこそ御堂筋といった感じなので、やはり傷付かない。なんというか、御堂筋と過ごすと罵声を流せるようになってしまった。そのことに知らず笑ってしまい、また御堂筋に罵倒された。本当に御堂筋は息をするように罵倒する。
「キモ、石垣くんキモ、なに笑うとるん」
「いや、別になんでもないねん。あ、せや御堂筋。今日な、総北の今泉くんとようさん喋ったで! えぇ子やな、彼」
「はぁ? 石垣くんあんなキモ泉くんと仲よぅなったん?」
「仲良く、なったんかな? あー、けどちゃんと握手したし、仲よぅなったんかな?」
 ははー、なんて笑いながら御堂筋からまた罵倒されるんだろうなと思いつつ御堂筋を見ると、予想に反して御堂筋は黙って俺を見ていた。心なしか、その目は泳いでいる。なにか変なことを言っただろうか。
 などと考えていたら、御堂筋は自転車に跨がり、そのままどこかへと走っていった。放置される俺。えーと? 次から次へと予想外のことばかりが起き、どうすればいいのかわからない。え、これは勝手に帰っていいのか? 帰ってしまっていいのか?一方的に放置され、これは遠回しに一人で帰れということかとようやく頭が回ってきた。あー、やはりまだ御堂筋がわからない。
「石垣くぅん!」
 頭を抱え、あと少しでゆっくり帰ろうとした時。御堂筋の声とペダルを回す音が聞こえてきた。顔をあげると御堂筋が何やらビニール袋を引っ提げて戻ってきていた。というか、御堂筋が戻ってきた、という事実に驚きが隠せない。御堂筋はそのまま俺の横に自転車を止め、ビニール袋を俺に渡す。中を見れば、除菌シートやら消毒液やらが入っていた。
「今から手ぇ拭いて」
「は、え?」
「えぇから、はよぅ手ぇ拭いて、綺麗にして」
「お、おん……」
 御堂筋の剣幕に圧され、除菌シートで手を拭く。御堂筋は手を拭く俺を見ながら、五枚分は拭け、そして家に帰ってたら消毒もしろ、と言った。なんだか母親に言われているようで変な気分だ。除菌シートの二枚目を使う。
「なぁ、なんで手拭かなあかんのや?」
 御堂筋は、いつも見せるそれよりも遥かに嫌そうな顔をした。
「やって、汚いやん」
 やはり俺は御堂筋がまだわからない。



そこまでの価値
/どこまで関西弁にすべきか
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