「靖友は俺のどこが好きなんだ」
 夜、突然新開はノックも無く荒北の部屋の扉を開け、机に向かって宿題をやっている最中の荒北に当然ながらたっぷり罵声を浴びさせられながら扉を閉め、それからまだ止まない罵声のオンパレードを遮り真顔でそんなことを言い放った。さすがの荒北も罵声を一時停止させ、なんだって? と立ったままの新開に訊き返した。いくらアシストとしての能力に長け、周りのことをよく把握してレース中のアクシデントに即座に反応出来ていても、日常においてのいきなりわけのわからない展開には即座に着いてはいけない。だから荒北は新開に訊き返した。新開は尚も真顔のまま、繰り返す。
「だから、靖友は俺のどこが好きなんだって訊いたんだ」
 繰り返して言ってくれたことにより、荒北はようやく新開の言葉を理解し、それから顔を顰めた。しかしこんなことで新開の心が折れてしまうことはなく、むしろ椅子に座ったままの荒北に向かい、キスをしようと思えばいつでも出来る距離まで顔を近付けさせる。なんなんだお前は、と至近距離の顔に舌打ちをする。
「答えてくれ、靖友。俺のどこが好きなんだ?」
「つぅか、どうしたんだよお前」
「尽八に言われたんだ。荒北は新開のどこが好きなんだろうなって」
 新開は意外とすんなり理由を話してくれた。荒北はそのことに少し驚きつつ、東堂に対する殺意がメラメラと焼き付けられた。あの野郎……! 顰めっ面がさらに酷くなった自覚はあったが、どうにも出来ない。
 それよりも。
「靖友……」
 いつまでたっても答えてくれない荒北に、新開は情けない声で名前を呼ぶ。荒北はレース中の、鬼とまで呼ばれる新開の走りを思いながら、面倒臭いと漏らす。
「んだよ、いいだろそんなこと」
「良くない! 気になって寝れないし、明日走れる気がしない!」
「いや走れヨ! バカか!」
「じゃあ言ってくれよ」
 なんて我が儘な……。東堂といい、天才にはこういった人種しかいないのかと荒北は頭が痛くなった。それと同時に、そんな奴らをちゃんとまとめてる福富を改めて尊敬した。いや、福富もどちらかといえば東堂や新開寄りの人種ではあるが。
 ひとまず荒北は新開に離れるように指示した。今更だが、こんな至近距離で言うにはかなり度胸がいる。とそこで荒北は、新開の望みを叶えようとしている自分がいることに気付き、とても嫌な気分になった。新開はそんなことにも気付かず荒北から距離を取り、カーペットの上で正座する。荒北は今か今かと自分の言葉を待つ新開を見下ろし、足を組んだ。顔が熱くなる。思わず目を逸らす。
「あー、その、だな、あー……な、なんとなく……」
 自分でもみっともないと自覚しながらも、ぼそぼそと話してしまう。しかしこれで許してほしい。荒北には好きという度胸もないのだから。そこんとこわかってくれ、切にそう願いながらチラリと新開を見れば、驚くほどに不満げな顔をしていた。伝わらなかったか、と思わず項垂れる。
「んだよ新開、不満か?」
「不満、と言われれば不満だな。というか納得出来ない」
「何が納得出来ねェんだよ!」
「だって、だってなんとなくってだけで、靖友が寿一以上に俺を好きになるとか納得出来ねぇよ!」
 寿一以上に好き、という言葉に荒北はあーそこかぁ、とようやく新開の不満を理解した。が、そんなことを言われても荒北は「なんとなく新開のことが好き」としか説明のしようがない。どうしたものか。
「つかヨ、別に俺は福ちゃんとお前とを比べたりしてねェから。そもそも別次元だっつの」
「それでも靖友の中の寿一を越えられないんだろ?」
「越えたいのか?」
「越えたいわけじゃないけど、なんというかだな……」
 なんと言えばいいのかわからない。新開はふてくされながら、段々と自分はいったい何を求めているのかわからなくなってきた。そうだ、荒北の中で新開よりも福富のほうが何よりも特別で大事で大好きなことなんて今さらなのに。新開はそんな荒北が大好きなのに。正座したまま俯き、自己嫌悪に陥る新開を見て荒北は目を細め、やがてハッと嘲るように吐き捨てた。
「情けねェ面見せんな、俺はそういうお前、嫌いだぜ?」
「……あぁ、すまない」
 嫌い、と言われ、すぐに顔を上げ笑うが力が入らない。荒北もそのことに気付いているはずだ。だから荒北はそのまま「ぐだぐだ悩むないつもみたいにヘラヘラしてろバーカ」と罵るように励まし、それから好きと言えない自分自身を罵った。



愛してるは嘘じゃないんだよ
/新荒は福ちゃんを無視出来ない(だからと言って嫌いではない)
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