なんというか当たり前のように傍にいた、という感覚だった。誰かに強制されたわけでもなく、さりとて自分か向こうが意識したわけでもなかった。けれど不思議と離れることもなく、そこそこのほどよい距離感を保った状態がずっと続いていた。だから今泉はずっと友達がいなくとも決して孤独などではなかった。むしろ孤独になろうとも、彼の幼馴染みは空気など読まずにさも当然のように傍にいてくれる。それが嫌かと言うと決して嫌なわけではないのが、今泉が未だに色んな意味で幹に勝てない理由である。


「あのね、私ね、小野田くんが好きなの」
 自転車ショップ寒咲からの帰り道、今泉は幹が途中まで歩いてもいいかと言った時からきっと何か深刻なことを言われるるのだろうなと予感はしていた。案の定、幹はいつもの朗らかな笑みを顔から消し、代わりに自転車を見ているときと同じくらい真剣な顔を夕日に染めていた。濃い橙色がより迫力を手伝っているような気がして、今泉は一瞬だけ息を吐く。
「それを俺に言ってどうすんだよ」
「別に。ただ、今泉くんには言っておきたくて」
「ふぅん」
 幹は笑わない。そのことがとても変だった。今泉の知っている幹はいつも笑っているから。今泉はいつも、そんな幹を見ながらいったい何が楽しいんだよ、と思っていたから。
 それほどまでに、好きということか。今泉は幹の意中の相手であり、大事な大事な友達のことを考えた。普段はおどおどしていて、気弱で、アニメが大好きで、でもとても友達想いで、優しくて、自転車に乗ると途端にみんなを引っ張ってくれるくらい頼もしくなって、そして自転車が楽しくて仕方がない、そんな今泉の誇るべき仲間であり友達でもある小野田のことを考え、それからもしも小野田と幹が恋人同士になったら、ということを考え、今泉は振り払うようにかぶりを振った。何故かはわからない。ただ少なくとも、どちらかに嫉妬こそしていないが、面白くないと感じたことだけは確かだった。
「……告白、すんのか?」
 面白くないと感じたばかりなくせに、口は勝手に動く。今すぐにでも閉じてしまいたかったが、あっけなく言葉は出てしまった。けれどそこで幹が真剣な顔から、ぽかりと口を開け、驚いた顔になったので、今泉の気は少しだけ晴れた。幹は開いた口を塞ぐことなく今泉を見上げ、それから、考えていなかった、とこぼす。
「そっか、告白、うん、告白……」
「お前本当に小野田のこと好きなのかよ」
 呆れると、すぐに好きよ! と強く反論された。今泉はなら、と促すが、幹はううん、と唸った。
「ていうか告白とか、もうちょっと小野田くんにアプローチしなきゃ出来ないし、だいたい、小野田くんには自転車に集中してもらいたいし」
「そんなこと言ってたら引退まで待つことになるぞ?」
「じゃあ今泉くんは今すぐ告白したほうがいいと思う?」
 なんで俺が恋の相談を受けてんだろ、と今泉はようやく気が付いたが、今さらなのと幹が相手なのとで諦めた。そして、今すぐ告白、という言葉に、先ほど感じた面白くなさを感じ、それから唐突に小野田と幹が恋人同士になってしまったら二人とも自分から離れてしまうのでは、という子供の駄々のような考えが浮かび、今泉は消えたくなった。しかしそんなこと顔には出さないし、出せない。
「……まぁ、まだいいんじゃねぇの」
 あくまでも知るか、という体を装い、今泉は代わらずまだ自分の傍にいてくれる幹と小野田に心の中だけでひっそりと謝った。



となりにいていいか
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