眠りに落ちる寸前にそれに気付いた今泉俊輔はまさに身体中に電流か走ったようだった。ビリビリとした衝撃が変に心地好い。自転車を漕いでいる時と同じ様な心地好さでもあった。なんだ、なんでそんな簡単なことに気付かなかったんだろう。思わず緩む口元を誰も見ていないのに手で隠す。それはこそばゆさから来るものであったが、今泉はそれどころではなかった。ああ早く朝が来ないだろうか!

 今泉の数少ない友達である小野田坂道はよく転ける。歩いていても転けるし、自転車に乗っていても転ける、なるほど本人申告の体育Dはなかなかに侮れないものがある。しかも坂道には基本的に危機管理がなっていない。裏を返せばとんだ甘ちゃんであるのだが、それにしても異様に怖い人間や変な人間に絡まれる。今までよくいじめに合わなかったな、と失礼なことを考えてしまうのはもはや仕方がないことであった。
 そんな坂道は今、不良もどきに絡まれていた。坂道を取り囲むようにたぶん同級生の男子が4名。おいお前小野田だな、と声を掛けられた時点で嫌な予感しかしていなかった坂道は今にも泣きそうだった。しかも向こうの目的が「過去に自転車で挫折した人間」なだけに言葉も出ない。大方初心者な坂道がインターハイに出ることが気に食わないのだろう。坂道は部員全員の顔を頭に浮かべ、インターハイに出れなくてすいませんと目を閉じた。
「坂道!」
 今泉の叫びが聞こえる。坂道は一気に目を開け、取り囲んでいた男子たち越しに焦った顔の今泉を見付けた。取り囲んでいた男子たちは振り返り、突如表れた第3者に驚き、そのまま舌打ちと共にどこかへと走り去ってしまった。今泉はそれを追いかけようとしたが、今は坂道が大事だと腰を抜かして座り込んだ坂道へと駆け寄った。
「大丈夫か坂道!」
 顔を覗きこむと、坂道は魂が抜けたように唖然としていた。無理もなかった。今泉は安心させるために抱き締める。
「……怖かった、よ」
「あぁ」
「怖かった。こわか、った。あ、ああ、今泉くん! ぼく、」
「あぁ、大丈夫だ、坂道。大丈夫だから」
 だんだんと恐怖が甦ったのか、坂道は今泉の制服を握り締め、わんわんと泣き出した。今泉はよりいっそう強く抱き締め、あやすように、坂道、とこういう場面でしか呼べない下の名前を目一杯慈しむように呼びながら背中を擦る。それから今泉はひっそりと、今度坂道の名前を呼びたくなったときはもっと怖がらせないようにしようと思った。



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