死ぬかと思った。そんな感想を持つと同時に己の眼が異様に熱く、異様に頬が濡れていることに気付いた。なんだこれ。手で目と頬を触ると、それは水だった。水、つまりは涙か、と理解してからまたダムが崩壊したみたいにダバダバと涙が流れた。泣いていると意識し出すと喉も熱く、痛くなる。鼻を啜る。嗚咽が漏れる。そして、目の前で慌てた顔をした坂道を見付け、今泉は再び死にたくなった。恥ずかしすぎる。
「あ、あの、今泉くん、ごめ、ごめんね、今泉くん、ごめん、ごめんなさい、今泉くん、」
 手を無意味にばたつかせ、必死に謝る坂道に、今泉は申し訳無さしか感じない。というより坂道は何も悪くない。ここに鳴子や先輩たちがいたって、全員が全員、今泉が悪いと断言するに決まっている。それでも坂道は半ば泣きながら懸命に、大切な友達である今泉に謝り続けた。このままいけば土下座も見れそうだった。
「今泉く、ごめ、ごめんなさい、ごめんなさい、今泉くん、いまいずみくん、ごめんなさい」
 きっと坂道は今泉が何か言わない限り、一生謝り続けるのだろう。言葉ではなく嗚咽だけが漏れる中、今泉はそんなことを考えた。そして、そんなことをしていては自転車にも乗れないし、なにより坂道のあの楽しくて幸せで仕方がない、と物語る笑顔が見れないのだということに気付き、早く止まれと急いで己の涙腺に命令した。けれども、まだ依然として先ほどのショックから立ち直れていないのか、むしろ涙の量が増えたように感じる。坂道が謝りながらタオルを渡してきた。
「あ、の、これまだ使ってないから、あの、本当にごめん、なさい」
 律儀に綺麗なタオルを渡してくれた坂道のいじらしさに胸が締め付けられる。なんていい奴なのだろう。こんな、少し坂道に嫌いと言われただけで泣いてしまうような、鬱陶しさしかないような男に、こんなにも優しいだなんて。まだ謝る坂道の手から遠慮なくタオルを借り、今泉は早く泣き止んでもっと強くなろうと思った。それと、例え勢いとはいえ、二度と坂道の口から嫌い、なんて忌々しい単語が出ないようにもしよう、とも思った。タオルは坂道の心のように今泉の涙をゆっくりと吸収していく。



ぐらぐらのぼくをささえてくれるひと
お題>女顔
/メンタル激弱泉くん
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -