三好さんが俺の知らない誰かと恋人になったら果たして俺はどうするのだろう。最近よくそんなことを考えるようになった。というのもこの間長谷部と勝負するために会いに行き、その流れで晩ご飯を共にした際に言われた言葉がなかなか頭から離れてくれないからだった。その時の長谷部は山神さんの話を楽しげにしていて、結構酔っていたのでもしかしたらそのことを長谷部はまったく覚えていないかもしれない。
「お前さぁ、三好ちゃんに彼氏とか出来たらどうすんの?」
 よく他人から「ヘラヘラした顔」と言われる表情で長谷部は酒を煽った。俺はそんな長谷部に倣う。それから、そんなことを聞いてどうするんだと言った。気がする。あやふやなのは俺も酔っていて、さらに言えばもうこの時点から少し動揺していたからだった。だってそんなこと、考えたこともなかったのだ。
「あー、ほら、お前三好ちゃんのこと気にいってんじゃん? しかもおばあちゃんのほうなんて三好ちゃんとお前が結婚したらいいのにって言ってるらしいし。お前のことだから三好ちゃんと結婚、とか抵抗ないだろ? だから」
 だから。の意味はよくわからなかった。それと同時に、俺は三好さんともしかしたら結婚するような関係になるかもしれない、ということをその時ようやく、はっきりと認識した。そうだ。そうだった。三好さんは祖母のお気に入りで笑顔が素敵な魅力的な女性で、俺はそんな三好さんが、長谷部の言う通り気に入っていて。それなら結婚をしろと言われてもまったく抵抗はなかった。むしろ三好さんなら、とさえ思えた。
 そうして三好さんの素晴らしさにしばし感動しつつ、長谷部が最初に言った、三好さんにもし恋人が出来たら、という問いを思い出した。長谷部はちびちびと酒を飲み、俺もそれに倣いつつ、三好さんが幸せそうな顔をして男と並ぶ姿を想像した。きっと三好さんのような素敵な女性ならば、それに見合ういい人を見付けられるだろう。そして三好さん自身が選んだのだから、きっと三好さんは今以上に素敵な笑顔を浮かべるのだろう。幸せな生活を送れるのだろう。そこまで考え、ようやく徐々にテンションが下がる自分に気付いた。何故かはわからない。俺はただ三好さんのことを、結婚してもいいと思うくらい気に入っているだけの人間だから。
「おーい、じょーじー」
 長谷部の声に思考を戻される。見れば長谷部が、どうしたと俺を心配していた。相変わらずいい奴だ、と思いつつ、もしかしたら長谷部なら今の俺のこの気持ちが何かを答えてくれるかもしれないとそれを口に出そうとして、大丈夫だと答えておいた。長谷部はふぅんと流す。本当は、長谷部からの問いなのだから言っても良さそうだったが、ふいに「そんなんだから田中さんは駄目なんですよ」という三好さんの幻聴がしたので止めておいた。きっとそれは酔いのせいだろうが。

 そこからもうしばらく酒を飲み、俺たちは店を出て、別れた。帰路を辿りながら、夜風で冷めていく頭で俺は何度も何度も三好さんに恋人が出来たら、という長谷部の問いを繰り返し繰り返し答え、そのたびにこれではない気がする、いやいやそもそも俺は三好さんの恋愛事情に無関係なわけで、など考え、そして数日たった今でさえも、明確な答えは出てこず。ただあやふやな、三好さんに恋人が出来たら個人的にはあまり嬉しくはないなという感想しか持てなかった。答えは未だわからない。


気付くべきことはありませんか?
/じょーじはちょっと考え方がいけない
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -