「水戸部って、爆笑しないよな」
 自主練習の片付けをしつつ、伊月はふと思ったことを口に出してみた。水戸部はその投げ掛けに首を傾げた。その仕草だけで小金井がいなくとも水戸部が「そうかな?」と言っているのはわかる。1年という長さをひしひしと感じる瞬間でもある。
「そうだよ。なんていうか、水戸部は爆笑ってより、すっごく耐えて笑ってる気がする」
 これまでの水戸部を思い出せるだけ思い出し、微笑むなどを除いた笑顔を頭の中でピックアップしていくが、やはりみんなのように爆笑している水戸部がいない。そもそも喋らない水戸部が声を出して笑う、ということ自体が矛盾に満ちている気もするが、伊月としてはそれはなんだかもったいないように見えた。水戸部が困った顔で見下ろす。困らせたいわけではないのだが。
「ごめん水戸部。なんか変なこと言って」
 水戸部は首を横に振る。
「でも、俺的には水戸部の笑い声、出来たら爆笑したときの声が聞きたいな」
 宥めるように笑うと、水戸部は相変わらず困ったように、それでも笑った。伊月はそんな水戸部を見ながら、出来れば笑い声付きで見たかったな、とだけ思った。



笑って笑って大声で笑って
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テーマ「人外ファンタジー」
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