「カイジさんって殺しても死なないだろうね」
 なんの脈略もなくそう言ったしげるの目線の先を辿ると俺の左手だった。きっとそのことを言うまでの間には左耳と左頬も見られていたに違いない。こいつはなぜかいたく俺の傷痕を気に入っているし。それにしてもそれと俺が死なないことと何の関係があるのだろう。
「死なない、じゃないよ。殺しても死なない、だよ」
「どう違うんだよ」
 生憎としげるほど賢くない俺にはその違いがわからない。左手から目線を上げ、俺の表情からそのことを読み取ったのか、まぁいいよとしげるは言う。中学生の癖に生意気だ、とは言いたくても怖くて言えなかった。
「なんていうかさ、カイジさんって今まで指賭けたり耳賭けたりしてあまつさえ一回は切れたじゃない? しかも全部左」
「おぅ」
「で、心臓は左にあるじゃない。だからきっと、心臓を取られてもカイジさんは大丈夫なんだと思って」
「いやいやいや!」
 何を、何をバカなこと言ってんだこのくそガキ! そんなわけあるか! いくら俺でも死ぬっつぅの! 俺はただの人間なんだから! 拳を作り、怒りに肩が震える。けれどそんなことでしげるは怯むこともなく、むしろ飄々と「左半分ないカイジさんを見る日が楽しみだよ」と薄く笑う始末である。そんなことで貴重な笑顔を消費するなと叫びたい。
「っは、ならお前は下半身が無くなってもピンピンしてて、なおかつまだギャンブルしてそうだけどな!」
 なんとなく悔しくて喧嘩を買うような言い方になってしまったが、実際俺はそう思っていた。というかだ。俺はしげるの弱った姿が想像出来ない。死にかけも、なんだか似合わない。それはしげるが強いからとかではない気がする。強いて言うならば、『赤木しげる』っぽくない。
 しげるは俺の言葉に何か反応するわけでもなく、ただじぃと俺を見詰める。正直怖い。
「……あの、」
 情けなくも早速しげるの顔色を伺おうとし、しかしそれはしげるの本日二度目の笑顔で消えた。
「ふふ、確かにそうだろうね」
 その言葉が、さっき俺が喧嘩腰みたいに言ったことに対する返事だと気付くのに、少し時間がかかった。なぜなら俺は見惚れていたのだ。しげるの、裏のない綺麗な笑顔に。
 いったい俺の言葉のどこにそんな要素があったのか。お前もそんなふうに笑えんじゃん。言い過ぎた。言いたいことは色々あるが、泡のように消えていく。だから俺はただ、しげるが気に入っている左手でその白い頭を撫でるだけにした。



なにをしたって
/死にそうで死なないカイジと死ななそうなしげる
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