零のライバルであり友達である標はとんでもない天才であり、また性格や佇まいもこの世のすべてを悟りきったかのようにとても静かで落ち着いている。普通に生きてきた大人はおろか、偉業を成した者や何らかの達人でもそういう人間になれるかどうか。とにかく標は恐ろしいほどに天才で、恐ろしいほどに落ち着いている、恐ろしい小学生だった。
 そんな恐ろしい小学生である標は今、某ファーストフード店に来ていた。標は看板を見上げ、店が間違っていないかを今一度確かめてから中へと入る。それは端から見れば違和感などない、普通の小学生が普通にファーストフード店に入ったという普通の光景だった。しかし標はただの小学生ではない。恐ろしい小学生なのだ。それだけで違和感しかない。もちろん彼の信者が傍にいたなら、標をこんな安さと早さが売りな店になど近付けさせなかっただろう。標にこんな店は相応しくないと。標の意見も聞かず。
 だが今は信者の影はなく、標は誰に止められることもなく、沢山の人で賑わう店内に入り、さっさと注文をし、そしてここを待ち合わせ場所に指定した零を待った。

「悪い標、遅れた!」
 席に着いてから五分ほどして零が走ってきた。標は窓の外から目線を移し、零の申し訳なさそうにする顔にふっと笑う。零にしか見せない優しい笑顔だった。
「いや、大丈夫だよ零。僕もつい五分くらい前に来たばかりだし」
「そう、なのか? あ、いやでも、俺が遅れたことに変わりはないな……。すまん、これから気を付ける!」
「うん。ところで零、何か注文してきたら?」
「ん、今から行ってくる」
 標が言うまでもなく注文に行くつもりだった零は標の向かいの席に財布を抜いた鞄を置き、レジへと向かった。標は誰にも零の荷物を取られないように、じっと空いている向かいを見詰めながら、今までの零とのやり取りを思い返した。

 零は、標と対等でいたいと言ってくれた人間だった。標からすれば零は元から自分と対等な人間であったし、これからの将来にも必要な人間だ。だから標はドリームキングダムの時に零にリングを渡そうとした。クォータージャンプの時に自分が負けてしまうかもしれないのに自分に助言を渡してくれたこともあったし、もうその時点で零がいなければ話にならないと思ったからだった。だが零は、はっきりと、受け取ったら対等ではないと言った。強がりでもなく、本音で。その零の言葉に標は自分の望む対等の本当の意味に気付かされると共に、真剣に自分と対等でいてくれる存在に生まれて初めて出会えて、嬉しかった。
 標は先日の電話でのやり取りを思い出す。今度会わないか、という内容に承諾した後の、待ち合わせ場所をファーストフード店にしていいかという提案。そしてその理由がお互いにまだ学生なのだから(特に標は小学生なのだから、という点は標の望んだ対等とは少し意味が違う)そこが妥当だろうという、ごくありふれたものであること。何よりも零が当たり前のように、普通の友達のように自分に接してくれること。それらが標に幸福を与えてくれる。望んでいた対等を与えてくれる。
 やはり零を選んで良かった、と標はいつも行き着く結論と共に頼んだウーロン茶をストローで吸う。そこでタイミングよく注文を終え、ハンバーガーなどが乗ったトレイを持った零が戻ってきた。
「お待たせ」
 トレイをテーブルに置き、零は財布を鞄にしまいながら席に着く。標はそれを眺め、うん、と確かめるように頷いた。零はそんな標に、どうしたんだと訊ねた。標は年相応に笑う。そこには恐ろしい小学生の姿など、なかった。
「いや、ただ君はいい奴だな、て思っただけだよ」



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