人間の骨が見えてしまう。とは果たしてどんなものなのだろう。とリョーマは跡部の新たな技の話を聞いたとき、珍しく年齢に見合った好奇心を抱いた。それはどうやら周りも同じらしく、特に乾と柳はノートを片手にどうすれば人間の眼でそんなことが出来るのかと白熱している。金太郎も骨見えるとか派手やな! とはしゃいでいた。派手、という部分には首を傾げるが、それでもリョーマは金太郎に頷いて見せた。
「ねぇ、跡部さんの眼ってどうなってるの?」
 跡部の新たな技の話を聞いてから数日経った夜、リョーマは跡部のジョギングコースの情報を元に待ち伏せし、そして向こうが休憩に入った隙に話し掛けた。跡部はスポーツドリンクを飲みながら目だけで、なぜお前がいるんだと言う。しかしリョーマはそれには答えず、ねぇ、ともう一度繰り返した。スポーツドリンクを飲み干した跡部が訝しげにリョーマを見下ろす。
「なんだ突然」
「別に。ただ、骨まで見える眼ってどんなのかな、って」
「珍しいな」
 ふん、と馬鹿にするように鼻で笑う跡部に、リョーマは確かにそうだな、とも思ったが、どうでも良かった。それよりも今は、答えがほしい。
「聞いてどうする」
「さぁ、聞かなきゃわかんない」
「お前な……まぁいい。別にもったいぶるような話でもねぇし」
「なら早くしてよ」
 もったいぶるような話ではない、と言いながらの緩慢な跡部の態度に、リョーマは急かされる。しかし跡部はそんなリョーマを笑うこともたしなめることもせず、ただあっさりと「そんなもんは俺様にしかわかんねぇよ」そう言った。それはリョーマの求めていた答えの反対側にあったもので、リョーマは思わず顔をしかめた。そのわかりやすい反応に跡部は口元をにやりと歪ませる。
「なんだ王子様、せっかくの可愛い顔が台無しだぜ?」
「うるさい。ていうか、なにその答え」
「なにって、だから言っただろ? 俺様にしかわかんねぇよって」
「だから、そういうのじゃなくて」
 くしゃり。反抗するリョーマの頭を、跡部は弟にするようにためらいなく撫でた。少し汗ばむ手のひらには黒髪が引っ付いたが、跡部は気にした様子も見せず、むしろ面白いものに出会したように屈託なく笑っていた。その跡部の姿にもリョーマは反抗心が刺激され、すぐにその手を振り払った。けれど跡部は笑ったままだった。
「諦めろよ王子様。人間は誰も同じ景色が見れねぇし、それにこれはいくら手塚だろうとお前だろうと、無理なんだから」
 手塚の名前を出され、リョーマは跡部の言わんとすることをほんの少し理解した。つまりはいくら実力があっても、無我の境地が使えても、プレイヤーが跡部でなければ氷も見えないし人間の骨が見えるわけがない。あれらは跡部の眼があってはじめて使える技なのだから。けれど、リョーマはそれでも機嫌は戻らない。
「それでもどんな景色かだけでも教えてくれてもいいのに。ケチ」
 拗ねるリョーマに跡部はもう一度、今度は軽く頭を撫で、そして再びジョギングを開始する。そんな誰にも理解されない世界を見る王様の背中を、リョーマはただ眺めるだけだった。



お一人様王様
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