それに気付いてしまった零はどうすることもできずにただ呆然と椅子に座っていることしか出来なかった。後ろから末崎とジュンコの喜びはしゃぐ、零を呼ぶ声がし、暑苦しい抱擁を食わされた。けれど零は抱擁を振り払うこともなく、うるさいと言うこともなく、ただただ信じられないと、呆然としていた。けれど掛けていたサングラスのせいと元から冷静でいることがあり、今現在、零は勝利しているにも関わらず心ここにあらず状態であることを、誰一人として気付かなかった。もしかしたら、標ならば気付いたかもしれないのだが。
 零は自分の手を見下ろした。小さく震えている。零はこれが間違っても勝てた喜びからでも、生き残れた喜びからでもないのを知っているし、実感している。この震えは、楽しい、のだ。嬉しい、のだ。ギャンブルをすることが。また再びギャンブルをすることが出来ることが。
 ギャンブルに溺れていくことを、零の身体は、心は、何よりも喜んでいた。
 頭を抱えたい。いや、いっそのこと今すぐにでも自分は死ぬべきだ。そう瞬時に考えたが、ミツルの顔と標の顔が浮かび零は思い止まり、それからまた死にたくなった。何故ならばこんな自分ではミツルとの約束も標との約束も果たせない。果たすどころか、二人に見捨てられることが必須。零は涙腺が緩むのを感じ、卑しい人間になってしまったことを感じ、どうにか耐える。だってきっと、泣いたって許しを請うたって、零の身体は、心は何よりもギャンブルを欲している。ギャンブルがなければ息も出来ないほどに。
 ちらりと先ほど零に負けた人間を見る。今にも死にそうな顔をしていた。けれど零はそんな顔を見ても罪悪感が湧かず、代わりに口元が歪みそうになり、すかさず舌をおもいっきり噛んだ。ああもうこのまま死んでしまえばいいのに。(素直になればいいのに、ギャンブルが楽しいって!)



ぐしゃり、絶える呼吸
お題>花眠
/ギャンブルにハマっちゃったギャン鬼さん
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