朝いつものように家を出れば、高尾がチャリアカーに跨がったまま待機していた。しかし、緑間は高尾が見るからにしょんぼりとしている姿に眉を寄せた。だから少し厳しめに名前を呼ぶと、叱られた子供のように高尾が肩をぶるり、と震わせ、そして申し訳なさそうに緑間を呼んだ。緑間はそんな高尾になんだ、と答えつつ、じゃんけんをせずにチャリアカーに乗った。高尾は文句も言わずに漕ぎ始め、そしてポツポツと懺悔した。
「昨日、さ、お前の誕生日だったじゃん」
「そうだな」
「俺、覚えてたんだけど、タイミングっつぅか、その……」
 高尾の言葉が止まり、チャリアカーからのガラガラという音だけが高尾と緑間の空間を支配した。緑間は、昨日のことをゆっくりと思い出しながら、ラッキーアイテムであるポケットベルを見た。今日のかに座は3位である。
「高尾」
 緑間は淡々と呼んだ。高尾は答えない。
「来年は忘れるな」
 高尾は漕ぐのを止め、振り向いた。緑間は高尾ではなく爪を見ていた。緑間には誰かを慰めるという経験があまりない。そのことを知っている高尾は、それでもごめん、と緑間に謝った。そのあとにありがとう、も付け加えながら。



折れた爪の行方ばかり探している
お題>容赦
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