田中さんとご飯を食べる日が増えた。しかし間違っても私はこのことを嬉しく思っていない。何故ならば私は田中さんのことがあまり好きではないし、田中さんと関わるととても面倒だからだ。しかも話の内容は9割は長谷部さんのこと。真面目な顔には似合わないくらいに饒舌に話す姿は、本当に彼の祖母そのもので、そんな遺伝を受け継がなくてもいいのに、と思わざるを得ない。だが、ここで私が田中さんを避けると山神さんと長谷部さんに迷惑を掛けてしまうか(長谷部さんにはいい気がするけど)、余計に面倒なことになるかなので私は渋々、彼に付き合っているのだ。

 今日はイタリアンだった。いつもは居酒屋とか和食系のお店に連れていってもらうのだが、珍しい。
「イタリアンだなんて、珍しいですね」
「長谷部が、たまにはこういう店に連れていってやれ、と言っていたので」
「はぁ、そうですか」
 ここでも長谷部さんが出てくるとは。いや、当たり前か。だって田中さんの人生の大半は長谷部さんのために使っているようなものだし。それにしても長谷部さんが言わなければこの人は何も出来ないのだろうか。例えば私に意見を聞くとか。これで私が田中さんの彼女さんだったならば、文句を言っているかもしれない。もしかしたら、田中さんは今までの彼女に言われたかもしれないが。
「田中さんはイタリアンお好きですか?」
「嫌いではないです。三好さんはお好きですか?」
「そうですね、私も嫌いではないです」
「なら良かった」
 恐らく安堵したであろ田中さんに苦笑しつつ、頼んだパスタが来るまで水を飲む。田中さんはじっとそんな私を見る。これはもう慣れた。田中さんが特に私を見ているわけではなく、話す内容を決めていたり緊張している、ということを知ってからは、本当に。それにしても話す内容なんて長谷部さん以外無いのに。むしろ田中さんには長谷部さん以外何もないのに。こうして私と会うのだって、田中さん(祖母)が言ったからで。
「もしも田中さん(祖母)がいなければ、こうはならなかったのに」
「え」
 田中さんの驚いた顔に、しまったと今さらながらに気付き、慌てて訂正する。これではまるで私が田中さん(祖母)を嫌っているようではないか。
「ち、違うんです、その、た、田中さんのおばあ様がいなかったら、私たちって出会うこともなかったんだなー、と思いまして……!」
 慌てる私を、田中さんはじっと見詰める。なんだか怒られているような気分になってくる。あと、私がすごく言い訳しているみたい。そうもやついていると、田中さんがそうですね、と口を開く。
「確かに、あのまま俺が長谷部を見付けることもなく、また祖母が区役所に行くこともなく、そして祖母が貴方を気に入ることもなければ、」
 そこで田中さんは言葉を切る。店員がパスタを運んできたからだ。タイミングがいいのか悪いのか。店員がパスタの名前を言いながら置く間、田中さんはずっと私を見詰めていた。穴が開きそう。そしてパスタを置き終えた店員はすぐに去った。田中さんも、すぐに先程の話の続きを話す。
「俺は三好さんに出会うことはなかったでしょう。そこは否定しません。俺は、市役所に興味はありませんから。でも、今は普通に、三好さんに出会えて良かったと思っています」
 そう言って、田中さんはフォークとスプーンを手に取り、私の分も渡して、食べましょうかとだけ言って食べ始めた。私もそれに倣い、食べる。そしてそこそこ美味しいパスタを食べつつ、これは口説かれているのかそれともただの感想なのか、いったいどちらなのだろうかと考え、本当に田中さんは面倒だなぁ、と思った。



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