初めて会ったときから跡部は柳を何かと気にかけた。大丈夫か、何か食うか、試合しようぜ。いつもいつも、跡部は幸村や真田と会うと、決まって柳の元へと向かってそうやって構う。そんな風に構われるたびに、柳は自分は跡部に何かしたのだろうかとはっきりとした記憶を手繰り寄せるが、特に何もない。というよりむしろ、自分は本当に何もしていないのだが。

 今日も跡部は幸村への用事のあとに柳の元へと向かった。いつものことなので柳は特に驚きもせず、レギュラー部員の練習試合を見ながらそのデータをノートに書き続ける。跡部はそんな柳の隣に立ち、同じように試合を見た。堂々とした偵察だな、と思わず柳は口角を上げた。跡部は試合を見ているので、そんな柳に気付いていない。
「丸井の動き、ちょっと悪ぃな」
「ああ。先ほど馬鹿みたいに食ったばかりだからな」
「ふぅん」
 まるで立海テニス部員のような言い方に、今度こそ柳は声を出して笑ってしまいそうだった。だが、あと1秒というところで、自分は何を馬鹿げたことを考えているのだろうかと気付き、ぐっと飲み込んだ。
「跡部、帰らないのか?」
「なんだ、俺様に見られちゃ練習出来ねぇか?」
「そういうことは弦一郎にでも言ってやれ」
「誰がわざわざあのオッサンに会いに行くか」
 そう言うと、そこで跡部は試合から柳へと目線をやった。意外と小さな王様からの強い目力に、柳はなんだと目を閉じたまま涼しげに聞く。きっとこの調子ならば、跡部が俺に
「大丈夫か?」
 大丈夫か? と言う確率は78パーセントだ。心の中で跡部の言葉にそう被せた。跡部はまっすぐ見詰めている。柳は、わかりやすく微笑んでみせた。
「心配せずとも、俺はいたって平気だ」
「そうか」
 柳の返事に、跡部は安堵するわけでもなく、ただ頷くだけだった。それがなんとも彼らしくて、柳は思わず、お前は優しいなと言いかけて、止めた。優しさなどないことは知っている。跡部はつい、と目線を外し、そのまま柳に背を向ける。
「じゃあな」
 背を向けたまま去っていく跡部を見ながら、柳は次は自分から跡部に大丈夫かと問い掛けようとノートに書き記した。



かわいそかわいそ
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