手塚は自分が少なからず異性にモテる人間である、という自覚はあった。とは言ってもそれは手塚が日頃からモテたいと考えているわけではなく、ただラブレターを貰う機会に恵まれ、部員に「手塚はモテるね」と言われているからである。それに、手塚は自分が異性にモテるからといって特別喜ぶ性格でもないし、そもそも手塚はあまり色恋沙汰が得意ではない。テニスだけに専念していたいという思いが強いのもある。だから手塚は、とても贅沢な悩みかもしれないが、あまりモテなくてもいいな、と思っていた。

「お、なんだよ手塚。ラブレターかよ」
 手塚の部屋に入って早々、跡部は机の上に置かれたピンク色の手紙を見付けた。ドアを閉めながら手塚は、なぜ自分は仕舞うのを忘れていたのだろうと昨晩の自分を叱咤した。跡部はにたにたといやらしく笑いながらベッドに座り、手塚に許可も取らずに鼻歌混じりに手紙を開ける。手塚は座ることもなくそんな跡部を見下ろし、楽しげな跡部の姿に、もはやため息も出なかった。それと同時に、跡部が妬いたらどう宥めようかと頭が痛くなった。
「えーと、なになに……ほぅ、こいつ手塚と同じクラスか……。へぇ、手塚くんは優しいのか、へぇ……」
 わざとらしく感想を漏らす跡部に、なぜか手塚は怒られているような錯覚を感じた。勝手に手紙を見ているのは跡部だというのに。腹の奥がむかりとする。手塚は、もういっそ読むなとその手紙を奪ってしまおうかと考え、実行しようとした。が、それよりも早く跡部は読み終えたらしく、何事もなく手紙を仕舞い、机へと投げた。ひら、と手紙は元あった場所へと戻る。手塚の目には、跡部が妬いているようには見えなかった。
「……何か、思わなかったのか」
 つい口が滑る。しまった、と手塚が後悔しても遅く、跡部は手紙を見付けた時と同じような、いやそれ以上にいやらしく笑って手塚を見上げた。
「なんだ手塚、俺様の妬く姿が見たかったか?」
「違う……」
「違わねぇだろ、じゃなかったら、あんなこと言わねぇよ」
 今すぐにたにた笑う跡部をどうにかしたかった。だが、それをしてしまえばそうだ、と認めたも同然になってしまう。手塚は眉を寄せ、もう一度、違うと言った。しかし跡部にはそれさえも通じず、ただただ面白そうに笑っているだけだった。こちらは何も面白くないというのに。
「拗ねんなよ手塚」
「拗ねていない」
「ふ、可愛いなお前」
「可愛いくない」
「あーあー、はいはい」
 なぜか跡部が折れるような形になり、手塚はさらに機嫌が悪くなる。そしてさすがに不味いと思ったのか、跡部は立ったままの手塚の腹に抱き付き、落ち着けよと宥める。
「あのな手塚、俺はな、これでも嬉しいんだぜ?」
「嬉しい?」
「ああ、俺の愛するお前がモテモテで、嬉しいぜ」
「……意味が分からないな」
 本当に意味が分からなかった。手塚はよく鈍感だと言われるが、これは誰でも分からないと思う。跡部は甘えるように手塚の腹にぐりぐりと顔を押し付けた。手塚はため息を吐いた。
「跡部、説明しろ」
「だってよ、この俺が愛した男なんだぞ、お前は。そりゃモテんだろ。それに、お前が色んな奴から好かれてると、お前を愛してる俺まで嬉しい」
 すんすん、跡部が手塚の匂いを肺いっぱいに吸い込む音が部屋に響く。手塚はそんな跡部を引き剥がすこともなく、先ほどの跡部の言葉を理解しようと努めた。だが、あまり良く分からない。さっぱり分からない。だが、分からないなりにも、跡部が喜んでいるということだけは汲み取った。
「それでも俺はお前にだけモテていれば十分だ」
 手塚はそう言って跡部の頭を撫でる。跡部は頭をもっと撫でろと言わんばかりに腕の力を強め、お前は本当に可愛いなとくつくつ笑った。



きっと愛だね
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -