「柳先輩はどうして目を閉じてるんスか?」
 純粋。その二文字が赤也の目玉に宿ってまっすぐに柳を見上げた。いつもそうだ。この後輩は自分が幾分か知識を持っているからというだけで、親に引っ付く幼子のようになる。裏を返せばそれはとても頼りにされている、ということになるので柳は黙っているが。黙って、目を閉じているが。
「なんだ、目を閉じていてはいけないか」
「だって、不便じゃないんスか?」
「ふむ……まぁ、もう慣れたからな」
 そう言いながらも、柳は閉じた目で赤也が納得していない顔を見た。納得していない、というよりは、理解出来ない、といったほうが正しいのかもしれない。確かにそうだろう。元より柳はこのことを理解されたいと思ったこともないのだ。
「て、違うっス! 俺が聞きたいのは、なんでアンタが目を閉じてるかってこと!」
 拗ねたように唇を尖らせる後輩の姿に柳はこういう反応が本来あるべき男子中学生の姿なのだろう、と自身がれっきとした男子中学生であることを忘れたかのような感想を抱いた。そしてきっとそれは柳の中から消えてしまった、綺麗な部分なのだろう。赤也に気付かれない程度に、目を開ける。直に、見る。
「俺はな、赤也。綺麗なものだけをちゃんと見たいんだ」
「綺麗なもの……? ほーせき、とかっスか?」
「まあ、そんな感じだな」
 本当は半分しか正解していないが、恐らく赤也に言ったとしても理解に苦しむだけだろうから止めておく。それよりも柳は、自分が目を開けていることを赤也に気付かれていないことに神経を使った。赤也はよく柳のデータの斜め上を行くから、要注意しなければ。この流れで気付かれては、さすがに恥ずかしい。
 ふと、赤也が静かなことに気付く。よく見れば、いつの間にか難しい顔をしていた。柳は再び目を閉じ、どうしたんだ、と優しく問う。赤也は小さく唸り、いや、と前置き、
「俺的には、柳先輩の目が綺麗なんスけど、どうやったら見せられるかなって……」
 思わず目を目一杯開いてしまった。そういえば自分は驚くとつい開眼してしまうな、と冷静に分析したが、赤也が開眼した自分を見ながら、そう、それ! とはしゃぎ出したのでなんだかもう、どうでも良くなってきた。
 とりあえず今夜はずっと鏡の前にいなければならないようだ。



膜が張ってよく見えないや
お題>容赦
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