(緑間、緑間真太郎、キセキの世代、俺が中学の時にうちのバスケ部をぼろっくそに負かした試合にいた帝光バスケ部員、俺のトラウマ、俺の目標、俺の憎い相手、俺の、青春)
 そもそも俺は緑間が嫌いだった。いや、嫌いなんて生ぬるいかもしれない。正直に言えば俺は緑間なんて死ねばいいと思っていたし、死ななくても何かしらの事故で一生バスケが出来ない身体になればいいと思っていた。だって仕方がなかった。俺は、俺たちはみんなバスケが好きで、たまには辞めたいなとか言っていたけどキツい練習にだって耐えて、そこそこ強くはなって、勝てば喜び、負ければ悔しくてたまらない、そんな普通なバスケ部だったけれど、楽しかったのだ。なのに帝光と試合をしたあの日。一生忘れることも出来ないあの日。俺たちは悔しいという思いすら持つことも許されなかった。むしろ、今まで負けても悔しいと思えたことはただ幸せだったのだ。あの日。俺たちが与えられたのは絶望しかなくて、そんな絶望を俺たちにくれたのは緑間だった。
(緑間、緑間真太郎、キセキの世代、俺が中学の時にうちのバスケ部をぼろっくそに負かした試合にいた帝光バスケ部員、俺のトラウマ、俺の目標、俺の憎い相手、俺の、チームメイト)
 絶望からどうにか立ち直り、俺は受験が終わってからもバスケをした。俺以外のやつは辞めたりあまりバスケが強くない高校に行ったりだった。俺は一人でバスケをした。いつか、緑間を負かすために。しかしこれこそが運命というべきか、緑間は俺と同じ学校にいた。そこでも絶望した。いや、本当のことを言うと俺はずっと絶望したままだった。しかし、何が楽しくて、俺は憎い相手を援護したりしなければならないのだろうか。きっとポジション的に見ても、俺は緑間のライバルにもなれない。俺は、いったいなんのためにバスケをしているのだろうか。緑間は当たり前のように俺を覚えてはおらず、当たり前のように初めからレギュラーだった。
(緑間、緑間真太郎、キセキの世代、俺が中学の時にうちのバスケ部をぼろっくそに負かした試合にいた帝光バスケ部員、俺のトラウマ、俺の目標、俺の憎い相手、俺の、エース)
 絶望をしていても、バスケをする意味がわからなくても、世界は回るし、俺が退部しなければ練習には出なければならなかった。当たり前だが秀徳の練習は厳しい。実際に何人か着いていけずに止めていった。俺はどうにか着いていけて、緑間もいた。緑間は辞めた奴を笑いもせず、黙々とボールを放っていた。がしゃん、と絶望の音がする。俺は絶望しながら、せめて緑間に認められるようになろうと思った。かつて自分に手も足も出なかった相手が、緑間にとって必要になればざまあないと考えたからだった。だから緑間が部活が終わっても練習をしているなら俺も残り、緑間に積極的に話し掛け、緑間を見続けた。その結果、俺は見事に緑間にほだされてしまったというのが落ちだが。
(緑間、緑間真太郎、キセキの世代、俺が中学の時にうちのバスケ部をぼろっくそに負かした試合にいた帝光バスケ部員、俺のトラウマ、俺の目標、俺の憎い相手、俺の、相棒)
 今でも緑間の放ったボールにあの日感じた絶望を思い出す。だが、それと同時に輝いても見えるのだ。きっとそれは、緑間を見続け、緑間がどのような人間なのか、緑間がどのような思いでバスケをしているのかを見たから、そう映るのだと思う。あーあ、緑間が嫌な奴だったら良かったのに。そうすれば俺はずっと緑間を憎んでいられたのに。そうすれば俺はずっと緑間を嫌いでいれたのに。そうすれば俺はずっと、緑間なんてこの世にいなければいいと、思っていられたのに。
(緑間、緑間真太郎、キセキの世代、俺が中学の時にうちのバスケ部をぼろっくそに負かした試合にいた帝光バスケ部員、俺のトラウマ、俺の目標、俺の憎い相手、俺のチームメイト、俺のエース、俺の相棒、俺の、大事な奴)
 朝、いつものようにチャリアカーに乗って緑間を迎えに行く。今日くらいは、じゃんけんはなしにする。ま、いつも俺が負けてんだけど。リアカー部分にお汁粉の缶の箱を置く。あー、こりゃ漕ぐのが大変そうだ。たぶん帰りはもっと重くなるかもしれない。少し苦笑すると、緑間が家から出てきた。よぅ、と手を上げる。顔がにやつく。
「おはよう真ちゃん。誕生日おめっとう! 大好きだぜ!」



まったくどうしてくれようか
/緑間おめでとう
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