「あ、動いた」
 苦来ちゃんがうっとりとした顔でお腹を撫でた。私はそんな苦来ちゃんから目を逸らして、代わりにいつ苦来ちゃんが食べたいといっても大丈夫なようにと、ミカンとかを用意した。そして顔の代わりに指先を見ていたら、畳に何かを書いている。なんだろう。
「苦来ちゃん、何書いてるの?」
「赤ちゃんの名前」
 これまたうっとりと苦来ちゃんが呟く。私はそっか、と尚も苦来ちゃんの真っ白で細い指先を見ていた。苦来ちゃんは恋をしているみたいな声で、畳に名前の候補を書きながら読み上げる。男の子の名前と女の子の名前が混じっていて、呪文のようだ。苦来ちゃんに似合う。
「ねぇ、どれがいいかしら」
 そこで私は、久しぶりに苦来ちゃんの顔を見た。苦来ちゃんは疲れたように笑っていた。だから私は、どうにか笑顔を作り、苦来ちゃんに任せるねと言う。すると苦来ちゃんはじゃあ二人でゆっくり決めましょうねと、ぺったんこのお腹を撫でた。



だってそれでも泡になる
お題>変身
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