「なんで諦めないの?」
 後ろから投げ掛けられた声には覇気が微塵も感じられなかった。いや、そもそも彼から覇気を感じる瞬間などお菓子関連ぐらいしかないのだから、気にする必要もないのだが。緑間はボールを放ったあとにゆるりと振り向き、壁に寄り掛かる紫原を見た。真っ直ぐ立っていないせいか、今だけは目線が同じだった。ボールが綺麗にゴールへ入る。
「なんの話だ」
「ミドチンの話」
 どんよりと澱んだ目玉が二つ、緑間を見ている。それは緑間を憐れんでいるようであったし、嘲け笑っているようだった。酷く気分が悪い。緑間は眼鏡のブリッジを直し、紫原の言葉の意味を素早く理解しようとした。というか、本当は理解しているのだが。
「赤司のことか」
 さっさと会話を終わらせたいという思いもあり、緑間はすぐにその名前を出した。だが、そうして緑間自身が口にしたことにより、緑間は自分が無意識になぜ自分は彼を追うこと、追い越すことを諦めないのかと疑問に思っていることを知った。知りたくもなかった。紫原は緩慢な動きで緑間から目を逸らす。それは彼なりの肯定だった。
「ミドチン見てると、なんか無謀だなって思うよ。だってさぁ、誰も赤ちんに勝てないんだよ? 確かに俺も負けんのはすごい嫌だけど、赤ちんだけは、諦めたよ? 止めたよ? もう、一生無理なんだって。だって、そんくらい赤ちんは強いんだよ?」
 珍しくはっきりとした紫原の言葉を聞き、緑間は紫原の言い分も理解出来ると思った。確かに赤司は強い。あの青峰よりもきっと強い。バスケに限らず、すべてにおいて。負けを知らない、敗けたこともない男。では、なぜ自分はそんな圧倒的な男を追い越すことを諦めないのだろうか。紫原みたいに諦めてしまえば、楽になれるのに。
「……それでも俺は、赤司に勝ちたいだけだ」
 確かめるように、今一度決意するように、緑間は言う。紫原はそんな緑間を見詰め、やはりどうしても緑間が赤司に勝つ姿が想像出来なかった。だが、ふと緑間が自分みたいに諦めている姿、というのも想像出来ないことにも気付き、紫原はふぅん、と呟いた。
「ま、せいぜい頑張れば?」
 きっと一生勝てないだろうけれど。



勝ち知らず
レス>まず完成が遅くてすみません…。もう遅くなるならいっそ緑間の誕生日にやらかそうと思って今日にしました。本当にすみません。そしてなんだかあまり二人が赤司について話していなくて…でもきっと二人は微妙に赤司への想いが違うと思うんです!私なんぞの話が好きと言っていただけて嬉しいです。私もアキコさんのお話大好きです!リクエストありがとうございました!
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