いつものように氷帝テニス部のレギュラーたちが着替えるために部室へと入ると、そこには困った顔をして上半身裸な跡部とその跡部に思い切り抱き付いている慈郎という異様な光景が待っていた。最初にドアを開け、そして現在ドアノブを握ったままの向日は一瞬で「あ、これはもしやお楽しみ中ってやつ?」となぜか冷静に判断した。そして後ろでぽかりとしている部員と中にいる二人のためにも素早くドアを閉めてやろうとする。だが、あと少しで閉まるというところで、跡部が「なんで閉めんだ!」と怒鳴ったので、再び向日はドアを開け、向日の後ろからは部員たちの様々な叫びがこだました。

「別にいかがわしいことをしてた訳でもされてた訳でもねぇよ」
 部員全員が叫んだりしていた間に慈郎を剥がし、ちゃっちゃと着替えた跡部はソファーに座り、慈郎以外にそう言った。ちなみに慈郎はなぜか跡部を横から抱いて座っている。そんな跡部の言葉に一部を除いた部員は日頃の慈郎の行動などを思い返し「ですよねー」と安堵し、除かれた一部は「こいつ……開き直ってやがる……!」と戦慄し、察知した跡部に睨まれた。
「たく、びっくりしたぜ」
「俺なんて『こいつら付き合ってるんだ』って普通に受け止めてちったよー」
「んな訳ねぇだろ! なぁ、慈郎」
「本当だC〜。跡部は好きだけど女の子のが好きだC〜」
 心外だと言うように跡部と慈郎は顔をしかめた。だが、相変わらず慈郎は跡部に抱き付いているし跡部もそれを甘受している。別段、慈郎が跡部に抱き付いているというのは部員にとって不思議ではないが、それにしてもあらぬ誤解を受けたにも関わらずまだ抱き付いているのはおかしい。
「ならなんでお前は跡部に抱き付いとるんや?」
 忍足がそう訊ねると、途端に跡部は困った顔をしだし、慈郎はあ、そうだった! と今思い出したかのように慌て出した。
「そうだよ、このままじゃ跡部が死んじゃう!」
 そう叫びながらさらに抱き付く慈郎に、跡部は頭が痛そうに額を押さえた。そんな跡部の姿をしっかりと全員見たが、一応慈郎に話を聞くことにした。決して、面白がっているわけではない。少なくとも樺地は。
「へー、なんで跡部が死ぬんだ?」
「あのね、夢で俺と跡部が雪ん中いて、寒いねーって言ったら跡部が上着貸してくれて、そんでありがとうって言おうとしたら跡部が寒いって言いながら死んじゃって……!」
「やから、抱き付いとるん?」
「だって、寒くしたら跡部が死ぬじゃん!」
 なに言ってるんだ! とばかりの迫力で怒られ、部員全員で跡部に憐れみの眼差しを送り、そしてこんな理由でも慈郎を拒めない跡部はどんだけ甘いんだと全員で頭を抱えた。



まだあったかい心臓のこと
お題>花眠
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