「お前のことなんてすべてお見通しなんだよ」
試合中や会話の最中、跡部はたまにそういうことを言う。いつも通り自信に満ち足りたその言葉を聞くたび、忍足はすべてというのは言い過ぎではないかとつい考えてしまう。相手のことがある程度わかる、ならまだわかる。というよりも、忍足だって別に跡部が本当に相手のすべてを見抜いているとは微塵も思っていない。そうわかっているのに、なぜか忍足は跡部のあの台詞につい反発したくなるのだ。
どこからか、跡部って本当に人間かよ、という声が図書館の中で聞こえた。忍足はその声がどこから聞こえるのかを探す。足音を立てぬように探すと、ひそひそとした声はあまり人が入らない考古学と書かれた本棚から聞こえてきた。忍足は気付かれぬように聞き耳を立てた。
「なんかさ、あいつって本当に人間かな」
「なにお前、跡部のこと嫌いなの?」
「いや、嫌いじゃねぇけどさ。けど、あいつっていい意味で人間離れしてね?」
「あー、そういう意味な。まあ、確かにな。なんかこう、一種の神様っぽいよな」
かみさま、と忍足は口の中で転がしてみた。しかししっくりとこない。そもそも、跡部が人間離れしているという時点でしっくりしない。んん、と首を傾げる。忍足は氷帝テニス部と氷帝学園の人間が跡部を崇拝するように接していることをきちんと理解しているし、少なからず忍足も跡部とそういうふうに接している部分もある。だから別段、跡部が人間離れしていると言われても仕方がない気がする。だが、それでも忍足は何かしっくりと、すんなりと納得できない自分がいた。いったいこれは、なんなのだろうか。
忍足はううむ、と唸り、跡部の人間離れした部分を探すが一向に見付からない。忍足の頭の中では、どうしても人間らしく懸命に努力したり喜怒哀楽を豊かに見せたり相手のすべてがお見通しではない跡部ばかりがいる。忍足は尚もううむ、と唸る。
インザワールド
/侑士と跡部