ぐるぐる。ぐるぐる。回る回る世界。回る回る俺。ぐるぐる。ぐるぐる。コーヒーカップは誰も動かしてはいないのに、ずっと回り続けていた。周りを見渡せば、黒色、青色、緑色、黄色のカップが回っている。自分が座っているカップの色を確かめるために身を乗り出して見たら、紫色だった。
 赤色だけは、なかった。
「紫原、そんなに身体を出したら落ちるぞ。ちゃんと座れ」
 気付いたら横に赤ちんが座っていた。さっきまではいなかったのに。いつからいたんだろう。
「赤ちんいつからいたの?」
「さっきからいただろ」
 何を言っているんだというような顔をされると、そうだった気がしてきた。赤ちんに注意されたついでに座り直して謝る。赤ちんはそんなことよりも将棋をしようと、これまたいつの間にか俺たちの間に置かれた将棋盤を見下ろしていた。
「俺、将棋わかんないし」
「わからなくてもいいよ。俺は紫原と将棋をしたい」
 そういうふうに俺を必要とする言葉を簡単に吐く赤ちんはずるい。そういうふうに言われたら、うん、って言わなきゃダメな気がしてくるから。でも、赤ちんだから、ずるくてもいいの。
 頷いた俺に、赤ちんはうっすらと笑った。そしてそのまま、敦からはじめていいよと言う。俺は本当に将棋がわかんないから、そんなこと言われても困るなー、でも赤ちんに言われたからなー、って思いながらもうんうん悩んで、そしてようやく、いつも赤ちんがミドチンとやってる時みたいに駒を進めてみた。次、赤ちんだよ。そう言おうとして、何も言えなくなった。
「赤ちん?」
 気付いたら今度は赤ちんが消えた。え、え、なんでって周りを見渡したら、他のコーヒーカップもなくなっていた。というか、俺の乗っている紫色のカップは、いつの間にか回るのを止めていた。
 俺の隣には、俺しか駒を動かしていない将棋盤しかなかった。



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