赤司征十郎はたまに拉致される。誘拐ではない。何故ならば拉致する主犯が赤司の実の母親であるからだ。そのせいか、赤司は毎回拉致られることに対してはあまり抵抗は見せない。どころか、いつも赤司を拉致する、母親の部下やボディーガードに「いつもすまない」と労いの言葉をかけるほどだ。
 拉致されている最中、どこに向かっているか把握出来ないようにと赤司は目隠しをされている。今さら、という思いはあるが、部下たちの大切な仕事の一つだと思うと文句は言えない。
 母親も同じだ。
 母親は部下たちに赤司を拉致らせると、部下を残して赤司の手を引き、目的の部屋へと連れていく。赤司は内心、面倒だなぁ、と思っているが、この時の母親が滅多に見せない笑みを作っており、赤司はそれを見てしまうたびにやるせない気持ちにさせられる。
「征十郎、今日は幼稚園からやり直しましょうね」
 部屋の中には、幼児向けの教材と数本の鉛筆が置かれた小さな机しかなかった。母親の言葉と共にそれを見た赤司は、今日は幼稚園か、とため息を吐いた。母親はそのため息には気付かず、机の前に赤司を座らせる。
「さ、征十郎は賢いから、すぐに成長出来るわよ」
「そうか」
 横に座る母親の顔は、小さな頃に見た笑みそのものを浮かべていた。匂いだって、小さな頃から変わらず優しい匂いをしている。いったいいつから、赤司はこの空間以外でその笑みを見ていないことか。そしていったいいつから、母親はこんなふうに壊れてしまったのだろうかと。
 母親の手が教材の一つであるドリルを捲る。ひらがなの練習をしましょう、と書かれている。
「征十郎、まずはあ行から書きましょうね」
「はい」
 頷き、鉛筆を持つ。今の赤司の年齢では馬鹿馬鹿しい、ひらがなの練習をする。母親が横で、上手よ征十郎、と呟いく。それは一ヶ月ぶりに聞く母親からの誉め言葉だった。



リサイクル教育
/某マンガぱろもどき
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