緑間はお汁粉が好きだ。冷たいお汁粉も、温かいお汁粉も、平等に好きだ。毎日飲むほどには、好きだ。ただ、お汁粉が好きだと言うと、大概の反応として、意外だと言われるのが気に食わない。見た目から想像出来ないと言われた時には、お前は何様だと言ってしまったほどだ。お汁粉が好きなことには変わりはないので、特に何もないが。

 今日も緑間はお汁粉を飲んでいた。季節は冬なので、温かいお汁粉だ。昼食を終えると緑間はデザート代わりにお汁粉を飲む。紫原はそんな緑間の姿を見ながら、よく飽きもせずに飲めるね、と呆れたように述べる。しかし緑間はそんな紫原などお構いなしに、缶の底に粒が残らないように飲み干していく。そんなことにまで人事を尽くさなくても、と紫原は思ったが、今さらなので止めた。
「にしてもミドチンさ、なんでそんなにお汁粉好きなの?」
「美味いからだ」
 簡潔な解答に、紫原はふぅん、と頷きはしたが、完全に納得はしていなかった。確かにそれが一番の理由なのだろう。自分もお菓子を好きな理由を訊かれれば、そう答えるだろうし。だが、緑間なのだ。何かあるはずだと思ってしまう。話題が無いわけでもないが、紫原は続ける。
「本当にそんだけ?なんかないの?こう、思い出?みたいな感じ」
「思い出……」
 缶の底から粒が無くなったのか、緑間は滞りなく人事を尽くせたことに満足し、空き缶を机に置いた。そして紫原に言われた思い出を辿る。そうやって律儀に、言葉に反応してくれる緑間が紫原は嫌いではない。それにしても、自分で言っておいてあれだが、思い出とは。
 やがて、何かを思い出したように緑間がそういえば、と漏らした。
「確か、初めて買い食いしたのがお汁粉だったのだよ」
 緑間の言葉に、紫原は目を丸くさせた。初めての買い食いをわざわざ覚えていることにではない。むしろ、買い食いをさも特別なことのように言ったことに驚いたのだ。そもそも、自販機での買い物を買い食いと言うかどうかさえも曖昧だというのに。
 きっと大切に育てられてきたのだろう。普段の仕草などから思っていたが、この瞬間にその思いはさらに膨れる。別段、そのことを妬んではいないが、漠然とした羨ましさが紫原の心を占めた。本当に漠然としていて、紫原自身もいったい何が羨ましいのかは不明だが。
 ガリッ、と噛み締めたまいう棒は初めて一人で買った日から何も変わらずに紫原の胃の奥へと流れた。緑間はなんてことがないように席を立ち、空き缶をゴミ箱まで捨てに行く。学校でくらい、投げればいいのに。



溶かすような行いでした
お題>変身
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