よく鴇時はふらりといなくなる。とは言っても、それは失踪などではなく、単純に出掛け先で迷子になるだけなのだ。けれど、鴇時と共に出掛ける人間はいつもふらりと鴇時がいなくなると、焦る。あんなにもよく喋り騒いでいるのに、どれだけ影が薄いのだと。しかも見付けるのに時間がかかるのが、精神的に意外とキツい。もはや慣れっこな鴇時は、けろりとしたものだが。
 しかしなぜか篠ノ女だけは、鴇時をすぐに見付けることが出来た。こんなことはなく、初めて篠ノ女があっさりと鴇時を見付け出した日には、いつもはけろりとしている鴇時が、え、と動揺したほどだ。そんな鴇時の動揺などお構い無く、迷子になってんじゃねぇよと篠ノ女は拳骨を喰らわしていた。痛さよりも、動揺がまだ大きかった。
 そこから何かと篠ノ女は鴇時の探索に駆り出されるようになった。酷い場合は、鴇時を探すより篠ノ女を呼んだほうが早いという理由で呼び出されたりする。そのたびに篠ノ女は、口が酸っぱくなるほど迷子になるなと注意はするが、鴇時は苦笑いと謝罪しかしない。
 今日だってそうだった。篠ノ女が見付けた途端、鴇時は困ったようにしか笑わなくなる。篠ノ女からすれば、笑うくらいならば迷子にならなければいいのにと尤もなことを思うが、いつだったかに鴇時が、気付いたら皆がいないのだと言っていたのを思い出す。まさに鴇時の人生のようだ。
「篠ノ女、ごめんなー、毎回毎回」
「そう思ってんなら、少しは治そうとしろよな」
「うん、ごめん」
 力ない謝罪から、ずっと迷子になっていたんだと思わせられる。きっと昔から、迷子になるなと怒られたりしたのだろう。そして、ずっと鴇時を見付けられる人間がいなかったのだろう。それはとても寂しい。篠ノ女は平八たちが待っている姿を見ながら、ぼそりと呟く。
「まぁ、俺が見付けてやっからいいけどよ」
 鴇時の返事も待たず、篠ノ女は平八に見えるように手を振る。タイミングよく気付いた平八が、早く来いというように手招きする。おい鴇、走るぞ。篠ノ女がそう言う前に、酷く動揺した鴇時が急いで言った。その動揺の仕方は、初めて篠ノ女に見付けられた時と同じだった。
「そういうのは、女の子に言いなよ、馬鹿」



手引きの無駄遣い
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -