阿久根が下駄箱を開けると四つ折りにされた紙が上靴の上に置かれていた。封筒にも入っていない。普段、女子生徒からよく手紙を貰うことがある阿久根は、これはなんだろうかと興味をそそられた。だから阿久根は何の躊躇いもなく紙を取り、そして上靴も取り、上靴は床に置いて履き替える。その間に紙を観察する。
 紙は、ただのルーズリーフだった。四つ折りにされ、中身がわからない。もしかしたら嫌がらせの類いかもしれない、と阿久根が考えてしまうのは仕方がないことだった。なんせ阿久根は、中学時代が荒れていたせいで、こういった類いの手紙も貰うことが多々あったのだ。
 トントン、上靴を履き、阿久根は嫌々になりながらも手紙を開いた。果たしてどんな嫌がらせの文章がそこに書かれているのだろうかとため息も吐いている。だが、手紙の内容は、そんな阿久根の思いをあっさりと裏切った。そう、あっさりと。
 その手紙には中央に、好きです。と、ただそれだけが書かれていた。阿久根はパチクリと瞬きをゆっくりとし、もう一度見てみたが、内容は変わらない。さらに阿久根は他に何か書かれていないかも確認してみたが、その一文以外は見当たらない。ただただ、手紙の正体がラブレターであることを静かに伝えるだけだった。
 阿久根はしばらく思考が定まらなかった。なんといっても、こんなラブレターは生まれて初めて貰った。ショックというよりかは、驚きが大きい。気持ちは大変、有り難いのだが。
 無償に時間が経過していくにつれ、阿久根の思考が正常に戻り、正常に戻ってからも、阿久根は何度も何度も穴が開くのではないかと思われるほど、手紙を見た。そして、好きですと書かれた文字が、とある人間の文字と頭の中で一致する。果たして差出人は阿久根がそのことを見抜くことを知って、手紙を書いたかはわからないが。
 阿久根は思わず手紙を強く握り締める。くしゃり、と紙がしわくちゃになってしまったが、今はそれどころではない。そんなことよりも、阿久根はこの手紙を書いたであろう人物が、いったいどんな思いで、どんな状況でこの手紙を書いたのかが知りたかった。そして、彼ならばルーズリーフが精一杯だったのだろうと納得してしまうと、妙にこれが封筒に入れられた手紙よりも価値ある物に見えてくるのだから、不思議だ。
 最初のように手紙を丁重に四つ折りにする。そしてそれを鞄にしまい、阿久根は鼻歌混じりに生徒会室へと向かった。恐らく今ごろ沢山の花に水やりをしているであろう彼に、いかにして遠回しにこの想いを伝えてやろうかと考えながら。自分と同じように、惑えばいいと思いながら。



惑うばかりの恋をつむごう
/企画提出文
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