大抵のことは流したり受け入れられるようになった阿久根ではあったが、さすがに先程の人吉の発言はどうしようもなかった。否、意味がわからなくて困っている。確か自分は理解力が高いほうであるはずなのだが。困った、これは困った。何より、人吉が「俺が言った意味が阿久根先輩ならわかりますよね」という前提で話しているのが、一番困った。
 だから、阿久根はとても心苦しくなりながらも、とても曖昧に笑って見せて、もう少し詳しく言ってくれないかな、と言ってみた。その時の人吉の呆れ果てた顔は、恐らく忘れられそうにない。
 人吉が重々しくため息を吐く。
「だから、眩しいんですよ、阿久根先輩。キラキラしすぎです。まともに目が開けられません。迷惑してんですよ」
 やはりわからなかった。そもそも、何が眩しいのかもわからずじまいだ。それに、人吉はしっかりと目を開けている。めだかさんがいれば、わかるだろうか。阿久根は小さく唸りながら、腕を組んだ。人吉とのコミュニケーションに支障など無くなったと思っていたのは、自分だけだったようだ。テンションが下がる。
 しかしテンションが下がろうが、人吉の迷惑そうな顔は治ることがない。仕方ない。探りを入れてみる。
「人吉くんは、何が眩しいのかな?」
 なるたけ優しそうな笑みを作った。昔とは違うのだ。怒鳴ったり罵ったり睨んだりはしない。すると、人吉は目を泳がせ始めた。というより、阿久根から目を逸らそうとしているような。
「阿久根先輩が」
「へ、え?」
「阿久根先輩が、キラキラしてて、眩しいです。今みたいに、笑ってたら、特に」
 言いたくなさそうに、けれど今までよりもぐっと核心に近付いた。いや、これは核心だ。人吉はようやく核心を吐いた。目を逸らしながら。
 そんな人吉を見ながら、阿久根はどうすればいいのだろうと数分前とは違った意味で困っていた。これはめだかさんでも解決するのは難しい。ただ単に人吉の目玉を抉れば解決してしまうのかもしれないし、球磨川に無かったことにしてもらえばいいのかもしれない。
 だが、しかし。
 口元を押さえる。何を言い出すかわかったものではない。それに、人吉はとても困っているのだ。可愛い可愛い後輩が、先輩を頼りにしてくれているのだ。自分ではどうにも出来ないから。―――結果としては、阿久根にもどうにも出来ないのだが。
 押さえた口元がそわつく。人吉に訊きたくて仕方なさそうに。ねぇ、人吉くんは俺のことを格好いいと思ってくれているの。阿久根はその言葉を、喜びを噛み締めるようにどうにか咀嚼し、抑えた。きっとそんな姿も、人吉にはキラキラと映っているのだろうが。



脳天から潔く
お題>舌
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