「知ってたよ、そんなこと」
 お前なんか友達と思ったことねぇよ、と篠ノ女に言われて、鴇時は悲しみを漂わせながら和やかに笑ってみせた。そんな笑顔を見せられてしまうと、途端に口から何も出なくなる。鴇時相手に口喧嘩で負けたことがないのに、だ。
 友達と思ったことがない。その気持ちを知ってると一蹴され、篠ノ女はああどうすればいいんだと珍しく頭をフル回転させた。勉強や料理でもここまで使わない。色んな意味で鴇時は篠ノ女の予想の範疇を越えてしまう。そこが面白いわけだが。

 鴇時は固まってしまった篠ノ女を見上げた。だが鴇時には、篠ノ女を心配する余裕などなかった。なんせ知っていたとは言え、篠ノ女から直々に友達じゃない発言をされてしまったのだ。ショックは大きい。
 どうしよう、と鴇時は考える。この状況の打破でも、泣くのを耐えるためでもなく、どうすれば篠ノ女のちゃんと友達になれるだろうか、そのことを考える。きっと今まで以上に真剣だ。なんせ篠ノ女はそう簡単に口説かれはしないから。

 先に動いたのは、篠ノ女の右手だった。鴇時はその右手に無防備な頭を撫でられる。いきなりの事に鴇時はぱちくりと目を開いて、篠ノ女を見上げた。しかし篠ノ女はまるで苦虫を噛み潰したような顔をしている。無理をさせている、鴇時の胸に、もわりと不安が上がる。
「無理、しなくていいよ」
 思わず泣きそうになる。だが、篠ノ女の右手は相変わらず鴇時の頭を撫でていて、それがまた鴇時を泣かそうとする。
 そんな鴇時を見て、困ったと篠ノ女は呟いた。右手は不器用なほどに鴇時の髪を乱していく。困った、これは、困った。
「何をすれば友達なんだろうな、鴇」



さよならからのこんにちは
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