どういうわけかどれだけ疲れていても眠気が来ない木村は、眠れない代わりにきちんと授業を受けることが出来る。しかし本人的には一度くらいは授業中に居眠りをしてみたいという謎の願望があった。授業中に寝るなど考えられない大坪と緑間からすればなんとも信じられない悩みなのだが、木村は大真面目だ。変なところで真面目な男である。
すやすやと静かな教室に寝息が響くとき、木村は欠伸が人に移るのならば眠気も移ればいいのにと思う。だが、いくら木村が待ち構えても眠気はひらひらと目の前で手を振るだけで、木村を掴んではくれない。その代償として教師から好感をもってもらえるのだが、木村はそんなものよりも貴重な高校生活の一ページに居眠りという事実を刻みたかった。
また居眠りが出来ないまま、授業が終わる。木村はため息を吐く。こんなにも眠気はあるのに。睡魔はいつだって木村の望みを叶えてはくれない。
「木村ぁ、ノート見して」
横から、宮地が木村のノートをかっさらっていく。見れば、宮地の顔には寝跡がくっきりと着いていた。宮地も普段は居眠りしないほうだが、たまにする。木村はそんな宮地が羨ましかった。
木村のノートがパラパラと捲られる。
「木村のノートって綺麗だから見やすいんだよなぁ。助かるわ」
「お前なら俺からノート借りなくてもいいんじゃないか?」
「はは、ぬかせや」
ケタケタ笑う宮地はいつもよりも機嫌がいいらしい。いい夢でも見たのだろうか。羨ましい。木村も、夢を見るくらいにぐっすりと居眠りをしたいものだ。もはやそれを居眠りとは言わないのだろうが。
夢を見たっていいじゃない