飴玉が苦手だ。なんせ阿久根の意思と関係無く口に含んだ瞬間に壊してしまう。しかも、飴玉を砕く瞬間に小さな快感を覚えてしまっているのがまた、阿久根を嫌にさせた。だから阿久根は出来るなら飴玉を食べることなく死にたいと思っている。
少し困っていた女子生徒の手助けをしてやると、女子生徒は頬を赤らめながらお礼にとポケットから飴玉をいくつか出した。女の子らしいと思いながら、阿久根は笑顔でそれらを受け取り、そそくさと生徒会室へと向かった。あそこに置いておけば、誰かが勝手に食べるだろう。
生徒会室には人吉しかいなかった。ドアを開けた阿久根にお疲れ様ですと挨拶をしながら、書類を睨んでいる。阿久根はこれはいいとばかりに人吉に近寄り、机に飴玉を置いた。机と飴玉のぶつかる音により集中力が切れたのか、人吉は阿久根と飴玉を見た。
「飴でも食べたら?」
「いいんですか?」
「うん。あ、余ったら余ったで、めだかさんとかにあげるから」
「阿久根先輩は食べないんですか?」
「さっき、食べたから」
本当は嘘なのだが、面倒なことは避けておきたいので笑っておく。人吉はそんな阿久根の笑顔を信じたのか、軽くのびをしながら「じゃあ、いただきますね」と言って飴玉を袋から出し、食べ始めた。
阿久根は人吉が飴玉を食べたことに安堵しながら自分の席に座る。ちょうど向かいに人吉が見える。ガリガリという音がしないことから、どうやら彼は飴玉を噛まないらしい。阿久根はそんな人吉を羨ましいと思い、そして人吉と一緒ならば飴玉を舐めれるようになれるだろうかと考えた。
のみ込むまでの春
お題>花眠