恋する女の子は怖い。元から女の子は得体が知れなくて怖いのに、そこに恋が加わったら尚更のことだ。いくら並の人間より柔軟性がある高尾とて、手には負えない。高尾は万能ではないのだから。
いいなぁ、と呟いた時の桃井を、高尾はきっと一生忘れることは出来ない。なんせその時の桃井と言ったら、声から何から、得体の知れない未知の生物みたいだったのだ。甘えるような声は甘すぎて、羨ましがる眼差しはあまりにも嫉妬深く、何より高尾の目の下に触れた指先のなんとも躊躇いのないこと!仮にもバスケ部のマネージャーだから、目を傷つけるなんてことはしないだろうが、それにしても躊躇いが無さすぎた。
「桃井には隙が見せられないのだよ」
もっと緑間の話を聞くべきだった。高尾は目の下を触られながら、緑間のやるせないような顔を思い出す。だが、確か緑間は桃井が恋をしていることを知らなかったはずだ。ということは、桃井は元からこんなにも怖いということになる。高尾の背筋が震える。それに合わせるように、桃井がうふふと笑みを漏らした。
「いいなぁ、すぐにテツくんを見付けられて」
目玉が何故だか居心地悪くなる。自分の目玉が収まっている然るべき場所なのに。桃井の手が離れる。笑みは絶やさない。
「男の子って本当にズルい」
水溶日
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