人吉殿の計らいで兄上の住む部屋へと足を踏み入れることが出来た。正直言うと、兄上と話すことはあまりないのだが、人吉殿の好意を無にするわけにもいかない。それに確か、人吉殿は一人っ子で、尚且つ身近な兄妹像が黒神兄妹だから、人吉殿の中では兄妹は基本的に仲がいいものだと認識されているのだろう。幸せな方だ。
 兄上は私がいるにも関わらず、植物に水やりをしていた。私はそれを後ろから眺めるだけだ。きっと兄上もだろうが、この時間は無駄だと思う。人吉殿には、大変悪いが。ため息を吐く。やはり昔からこの兄と仲良しこよしな仲にはなれないらしい。残念とは思えないが。
「恋」
 今は呼ばれない名前に、思考が追いつかなかった。しかしその名前を呼ぶ人間など、目の前にしかいない。恐る恐る目の前をしかと見れば、兄上が私を見ていた。
「暇なら、水やりをしろ」
 それだけ言って、兄上はまた水やりを始めた。私はどうすればいいのか分からず、立ち尽くす。しかし兄上がこちらを見ないまま、道具ならそこにあるだろと言ったので、それを手に取ることにした。というか、わざわざ兄妹で水やりって。
 水道水を汲み、兄上と同じように水やりをする。なんともシュールだ。しかし、少し兄上らしいなとも思った。というか、兄上がフレンドリーに対応してきたらしてきたで困るだろうが。
 水の流れる音がする。兄上は私を見ない。私も兄上を見ない。ただただ私たちは植物に水を与えていた。



少し不愉快なぬくもり
お題>容赦
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