思わずため息がこぼれた。それもほう、と芸術に見とれるときにこぼれてしまう類のものだ。元々その顔や肉体にも芸術性があったのだが、それとはまた違った芸術性が善吉の手元にあった。それは阿久根が書いた書類だった。
 阿久根は字が綺麗だ。鍋島や書道家を唸らせるどころかその人生を終わらせてしまっためだかも認めるほどに、綺麗だ。プリンスと、天才と呼ばれるに相応しい。むしろ、そうだからこそなのかもしれない。阿久根ならば、自分に似合った字くらい余裕で書けてしまえるのだろう。だからこそ生徒会書記という役職に就いたわけだが。
 善吉は阿久根の書く字が好きだ。めだかの字をずっと見てきて少し目が肥えてしまった彼ではあるが、阿久根の字は綺麗だと思うし、なおかつ(めだかには失礼かもしれないが)人間らしいと思う。だからこそ善吉は阿久根の字が好きだ。一種の芸術だとすら思っている。そのことを阿久根をはじめ、誰にも言ったことはないが。
 ほう、と一人きりの生徒会室にため息がこぼれる。善吉が眺める書類には阿久根の字が並んでいる。文章はどうでもいい。ただ、字が見れたら、それでいい。阿久根の字にはそれだけの価値がある。善吉は真剣に、誰にも知られることなくそう思った。



うつくしきせかい
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