決して自分の生きる理由や自分がどのような存在かを忘れてしまったわけではないが、白龍はアリババを見ていると黙って傍にいたいなと考えてしまう。そのたびに白龍は己を叱咤し、自分は何を考えていたと肩を落とす。白龍は、姉を守り、国を守らなければならないはずなのに。
 けれど、白龍がそんなことを考えたとしても、やはりまだまだ精神的に未熟な部分があるせいか、白龍はアリババを見るのを止めなかった。また、アリババはアリババで白龍と仲良くなろうとするので、余計に離れられない。
 アリババは天気のような人間だと白龍は思う。太陽ではない。太陽だけでは、アリババを表すことは出来ない。アリババは、誰からも必要とされ、誰をも包み込む存在だ。そう白龍は本気で信じていた。もしこれを他の誰かに言えば、違うのではないかと指摘されるだろう。しかし、少なくとも白龍にとってアリババは天気のような人間だった。
「白龍はなんか雨とか似合いそうだな」
「そうですか?」
「おう。言われたことねぇ?」
 首を振る。気分を悪くするだろうかと白龍は不安になったが、アリババは至って普通にそうか、とだけ言った。そして次には、笑った。表情が豊かすぎる。
「んじゃあ、俺だけが白龍をそう思ってんだな!」
 そう思っている、とは、つまり白龍には雨が似合うということだろう。白龍は頷いた。きっとそう思っている、が間違っていたとしても頷いただろう。なんせアリババが、あまりにも嬉しそうに笑う。
 それにしても、まさか天気のような人間から雨を貰うとは。白龍は恐れ多い気持ちでいっぱいだった。アリババは気付くことなく笑い、俺だけだぜー、と嬉しそうに言う。正直何が彼をそこまで喜ばせているかはわからないが、アリババが笑っているので白龍はどうでもよくなった。そんなことよりも、自分が雨ならばますます彼からは離れられまい。



呼吸の仕方を授けます
お題>容赦
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テーマ「人外ファンタジー」
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