愛してるわと呟いた女の髪を赤司はただ眺めるだけだった。長い、桃色の髪だ。触れたことはないが、きっとうんと手入れをされているだろうから、さらさらなのだろうと予想する。けれど赤司は予想だけして、実際に触ろうとは微塵も思ってはいなかった。無意味に女の髪に触るのはどうかと考えたからだ。
 髪と同じ桃色の瞳が赤司を映す。そして彼女はもう一度愛してるわと淀みなく言った。けれど顔が愛してるとは言っていない、と赤司には見える。先程のほうが、よっぽど愛してると言っていた。きっとそれは、赤司に向けて言われた言葉ではないからなのだろう。だから、つまり、桃井は赤司を愛してなどいないのだ。女とはなんと狡い。
「桃井、無理などするな」
「してないよ。変な赤司くん」
「……そうか」
 力なくほほえまれ、赤司は言葉を出せなくなった。こういったところも、狡い。赤司は、自分がもしも彼女と同じように女という生き物だったら、このように狡い生き方をしていたのだろうかと考え、首を振った。それこそ、無意味だ。
 桃井はそんな赤司を眺め、赤司くんは狡いねと胸の中で呟いた。赤司だけではない。男の子はみんなみんな狡い。いつも桃井がどんな気持ちなのか、考えもしない。桃井は嫌になった。自分にも、赤司にも。髪がたゆたう。ああ、髪が鬱陶しい。



手から殺すよう
お題>舌
/難しい…
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