はちみつ色、というフレーズを聞いて真っ先に思い浮かんだのがタカ丸さんの髪の毛だったので、私はバイトが終わってすぐにタカ丸さんの住むマンションまで来て今まさに呼び鈴を押したところだった。ちゃちな音が聞こえる。それから、そう言えば連絡もしていないからタカ丸さんがちゃんといるのかもわからないのだ、ということに気付いた。会いたいという気持ちが走りすぎたらしい。これでタカ丸さんがいなかったらどうしたものか、と考えていたら鍵を解除する音がした。それからドアが開く。
「はいは〜い……ってあれ? 綾部くん」
「こんばんは」
「こんばんはぁ」
 どうしたの? と続くはずだった言葉を遮るように挨拶をすると、単純なタカ丸さんはちゃんと返してくれた。それからタカ丸さんはどうしたの? を聞くのを忘れたようにすぐに私を部屋に上げてくれた。というかタカ丸さん、今誰が来たか確認しなかったな。危ないから止めてくださいと何回も言っているのに。
 リビングに着くとタカ丸さんは小さな冷蔵庫から私の好きなヤクルトを取り出してくれていた。前に私が置いていったというのもあるが、ちゃんと覚えていてくれたことに嬉しくなる。冷蔵庫を閉めるその背中を抱き締める。うわっ、とすっとんきょうな声がタカ丸さんらしい。
「ど、うしたの?」
「タカ丸さんを抱き締めたくなって」
「……もしかして、来た理由って、それ?」
「いえ、ただタカ丸さんに会いたくなっただけです」
 今頃になって玄関で忘れていたどうしたの? を聞かれ、ようやく答えることが出来た。はちみつ色で連想した綺麗な髪の毛に顔を埋める。はちみつの匂いはしないが、タカ丸さんの匂いがする。すん、とその匂いを堪能していたら、タカ丸さんから「綾部くんは困った子だよね」という小さな呟きが聞こえた。何か困らせただろうか。いや、タカ丸さんは本当に私がいて困る時はちゃんと言ってくれるし。首を傾げつつタカ丸さんの匂いを嗅ぐ。はちみつみたいな甘い匂いが少しだけした。



/さらっと言っちゃう綾部とそんな綾部に弱いタカ丸(のつもり)
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