妻の吐息からは死の香りがする。もちろんこれは比喩だ。死の香りなど、存在するわけがない。(だいたいそんなものが存在するのならば、私はその香りの虜になっているに違いなく)(ああ、また私はこんなことを考えてしまう)(神に使えているというのに)けれど私の妻は、呼吸を誤っただけですぐに死にそうな女からは、本当に死の香りがするのだ。きれい、と弱々しく私の名を呼ぶ声に混じる吐息のそれに、私は何度心が奮えたかわからない。(愛しげに私の名を呼ぶその喉を裂いてしまいたくて)(きっと裂いたのなら死の香りが私の心を満たしてくれるに違いない)(そんな私を、妻は死んでも理解出来ないのだ)(むしろ、こんな私を誰よりも美しいと思っている)(愚かな女)
「きれい」
 息も絶え絶えに妻は私を呼ぶ。なんだ、と応えれば、貴方を愛しているわ、と妻は慈愛の瞳で私を見詰めていた。しかし私は、そんなものよりも、その死の香りに。



/若きれいきれいがよくわからない
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テーマ「人外ファンタジー」
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