「一宮さん、明日の休みにデートしませんか?」
 書類を取りに行っていると、後ろからちは……恵の声がした。というか内容が内容なので慌てて振り返る。すると恵はすごく嫌そうな顔をしながら「私以外誰もいませんよ」と教えてくれた。ほっ。安堵すると恵は舌打ちをする。怖い。
「ご、ごめん……」
「理由もわからないのに謝らないで下さい」
「ごめんなさい……」
 またいつものパターンである。恵は呆れしか含まれていない溜め息を吐き出し、「で、オッケーなんですか?」と言った。俺は明日の予定を思い出す。うん、何もない。
「大丈夫だよ」
「そうですか」
 返事をすると恵はとりあえず不機嫌な表情を無くした。とりあえずは俺とのデートを楽しみにしてくれてる、はずだ。たぶん。
 ガチャ、扉が開く。話が終わった後ではあったが、俺は思わずビックリしてしまった。しかしその第三者が山神さんだとわかり、俺は再び安堵する。
「あれ? お二人ともどうしたんですか?」
「あーいや……」
「内緒話です」
 なんて言おうかな、なんて思っていたら恵から可愛らしい単語が聞こえてきた。いや、間違っちゃいないけれど。あと山神さんは単純だからそれでなぜか納得してくれた。そんなに単純で大丈夫か、山神さん。
「な、内緒話なら私は知っちゃダメですね!」
「内緒話ですからね。あ、山神さん、私と一宮さんが内緒話をしていたことも内緒で」
「わ、わかりました!」
 まるで園児と保母さんの会話を聞いているかのようだ。微笑ましいというか、可愛らしいというか。俺は苦笑しながら、山神さんによろしくねと後押ししておいた。山神さんはもう一度良い返事をする。それを聞きながら、恵は秘密という単語ではなく内緒と単語を使うことに今さら和んだ。



/いつも通りのいちはや
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