まずは頭を撫でてやることからはじめようかと思って頭を撫でてやるつもりが、頭のてっぺん辺りに生えている一本の触角のような毛を引っ張ってしまった。幸いにも力を入れたわけではないから毛は抜けなかったらしいが、それでも引っ張られた雁夜は「ぐ」と痛みに耐えるような声を出していた。睨む目とかち合う。だから時臣はそれに少し微笑み返し、しかし毛が抜けないのを良いことに引っ張るのを止めない。直ぐ様に雁夜は己の手で時臣の手を掴み、毛から離した。
「な、にがしたいんだ、アンタは」
 意味が解らない、とその声が語っているのは明らかだった。当然ながら時臣にもそれは解った。しかし時臣は不思議そうに首を傾げ「君は、私の考えていることを理解したいのか?」と問うた。すると雁夜は目こそは時臣を睨んだままだが、すぐにきゅっと口を閉じた。その姿がまるで叱られた子供のようで、時臣は息を吐くように笑った。
「そして、私も、君の考えていることを理解したいとは思わないな」
「……別に、理解されたいわけじゃない」
「あぁ、そうだね。だから、雁夜。君なんかが私を理解しようだなんて思わないほうが、いい」
 したくもない。もはや声に出すのも億劫なほど、強く思った。誰が、誰がお前ら魔術師を理解するかと。誰がお前ら魔術師を受け入れるかと。誰よりも魔術を恐ろしさを知り、そして魔術から逃げた雁夜だからこそ、強く思った。



歯の奥ですりつぶしました
お題>容赦
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