腹の中に七花の子供を身籠っているのです。
 鑢七実は相変わらず死体のような、生気を感じられない笑顔で自分の腹を着物越しに撫でた。わたしはそんな鑢七実の言葉に、気持ち悪いと吐きだした。鑢七実は嫉妬ですか?汚らしい。などところころ笑って腹を撫でるのを止めない。膨れてもいない腹を、まだ。
「ふん、嫉妬などせん。だいたい、わたしは七花が子を孕ますなど、出来るわけないと思うが」
「あら、とがめさん。知らないんですか?」
「なに、を」
 鑢七実は腹を撫でるのを一旦止めて、死体のような眼球でわたしを見る。じいとじいと。わたしから生気を吸い取るかのように。ただじいとじいと。わたしを見る。
「七花は、」
 鑢七実の不健康な色をした唇が小さく、七花の名前を飾る。わたしなどよりもたくさん七花を呼んでいる唇。そのまま顔面から剥がれてしまえばいいのに。
「七花は、わたしの言った事が絶対なのですよ」
 七花の顔を、ふいに思い出す。いつだって七花は意志がない。人間ではないから。あと、考えるのが面倒だから。だから、きっと七花はわたしに出会うまでは、この女の言った事が絶対で。疑う事すら、しなかったのだろう。逆らう事すら、なかったのだろう。だから、鑢七実は七花の。
「ねぇ、とがめさん。仇の子供の子供が生まれるって、どんな気分ですか?とがめさん、わたしはですね、貴方に、不幸なままで生きていてもらいたいのです」
 ですから。
 鑢七実はまた腹を撫で、瞼を伏せ、空気と溶け込むような声色でわたしを突き落とす。
「ですから、わたしと七花とこの子の暮らしを、ずっと、ただ、見守っていてくださいな」
 ねぇ、とがめさん。
 鑢七実はにやりと、彼女によく似合う邪悪な笑みをうっすらと浮かべて、腹を膨らました。やはりそこに、命などはなかった。



人間みたいなこと言わないで
お題>女顔
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テーマ「人外ファンタジー」
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