私の身体は天才と引き換えにとても不便で気まわりない。背が小さすぎて、みんなと同じ景色を見ることもみんなと同じ物を取ることもとても難しい。もう私も高校生なのに。だから私は毎日毎日牛乳を飲んでにぼしを食べる。カルシウムは大事。
「なー、萩村」
「何?」
 津田は私の隣を歩く。行き着く先が同じだから別に気にする事なんかない。でも私は津田が私に歩幅を合わせているのが少し気に食わない。先に行けばいいのに。でもそれがこいつなりの優しさというのを知っているので、なんとも言えなくなる。
 津田は私を見下ろし、私は津田を見上げた。津田はなんとなくなんだけどさぁ、と口を開く。
「お前もしかして、背伸びた?」
「え」
「いや、その、本当になんとなくなんだけど。違ってたら、その、ごめん」
 頭を掻きながら気まずそうに笑う津田のふくらはぎに蹴りをいれる。「早く行くわよ」早歩きの私に津田はゆっくり歩いてもすぐに追い付いてしまう。


 家に帰り、着替えている途中、ふと放課後の津田の言葉を思い出す。私は木柱を見つめる。違うわ私はそんな気はないけど津田が言っていたから。ぶつくさ言い、木柱に背を預けて身長を測る。
 ま、どうせ変わらないかと思いつつ木柱から離れて見る。
そこには、私くらいにしかわからないほどの1ミリがあった。
「……うそ」
 まじまじと見つめる。いつもいつも同じところで線が入っていた。きっと他の人が見ればたいして変わらないんだろう。ううん、津田は、ちゃんと気付いてくれた。
 明日は津田ににぼしでもあげようかしら。私はメールを作成しながら、そう思ったのだ。



にぼし
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