近頃俺はおかしいらしい。らしい、というのはそれが果たしておかしいのかどうかあやふやだからだ。それでもらしいをつけて自分自身をおかしいと言うのは、それを第三者が見た時の反応を考慮してみたからだ。だから、近頃俺はおかしいらしい。
「門田くん門田くん。それ、僕が解剖しちゃっていいかな?」
「あぁ、いいぞ」
「ありがとう!」
 にっこり。純度100パーセントのきらきらした無邪気な笑顔を振りまかれる。そして岸谷は生物教師が配布したメスを手に取り、班ごとに解剖するイカの死体にそれを刺した。ぶちゅりと墨が容器とメスと岸谷の手を汚す。だが、岸谷はそんなことなど気にしないように、むしろウキウキとワクワクしているように見えた。俺はそんな岸谷を隣から見て、ただただ解剖をしている岸谷は可愛いなぁと思っていた。
「岸谷、楽しいか?」
「うん!あ、でも欲を言えば静雄の解剖をしたいなぁ」
「殺されるぞ」
「だよねー」
 そう言いながらも岸谷は笑ってイカの解剖を進めていく。周りの奴らは生物教師に怒られたり、叫んでいたりした。その中で静かなのは俺と岸谷の班だけだった。
「しばらくは解剖らしいから、岸谷全部やるか?」
「いいの!?」
 墨だらけのメスと手の岸谷がおもちゃを与えられた子供のように、無邪気に笑う。俺はやはりそれに対して可愛いなぁと思って、いいぞと先ほど使った言葉を反芻した。近頃俺はおかしいらしい。



かいだんからころろろ
お題>女顔
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